カテゴリ:Ⅱ.見分ける学習の教材
159長い輪抜き
輪抜き/輪通しの教材は、4回や73回で紹介してきました。今回紹介するのはそのバリエーションで、90センチの高さがあるものになります。およそ「Ⅱ見分ける学習の教材」として使うことを想定しています。
輪抜きはシンプルですが奥の深い課題で、その高さ、あるいは2方向、3方向といった分岐の有無により、難易度が大きく変わってきます。高さだけを取り上げても、高ければ高くなるだけ、難易度が上がります。これは「高くなれば、運動のコントロールが難しくなる」というのが難易度が上がる理由の一つではあるのですが、それだけではありません。以下の2枚の写真をご覧ください。
左の物は輪抜きの棒が低く、右の物は高くなっています。この場合、「抜く」という運動をすることにはどちらも変わりがないのですが、運動を始める位置(一番下)と輪が抜ける位置(棒の終端)の距離が違います。距離が違えば、時間もかかります。右側の輪抜きを実施するためには、そこまで自分の運動を持続し、方向づけるための「見通し/わかる力」「注意を持続する力」が要求されることになります。輪抜き課題は分岐の有無も重要な視点で、これは次回紹介します。
(本校特別支援教育コーディネーター)
158可変型はめ
難易度を調整できるようにした、型はめの教材です。ベースとなっている型はめパズルは市販のものですが、市販品そのものを使用すると「選択肢が多すぎる」「枠が浅すぎ、『はまった』という感覚がつかみにくい」「ペグを持ち上げなければならず、筋力が弱い子が扱えない」といった難点が上がってきます。
そこで、市販品のペグはそのまま使い、枠だけを新たに作成しました。土台となっているものは、前回と同様にA3大のMDF板を重ねて接着し、A4台にくり抜いたところに鉄板(ブラックボードパネルの中身)を挟み込んだものです。左側の枠は一体型、右側の枠はさらにひと手間を加えることで、〇△□といった選択肢の位置を自在に変えられるようになっています。およそ、「Ⅰ目や手を使う基礎を整える教材」から「Ⅱ見分ける学習の教材」として使うことを想定しています。
市販品をそのまま使うだけでなく、ちょっとした手間をかけることで、一人一人の子どもの「今の力」に合わせた難易度設定をすることができます。場合によっては、「〇だけの型はめ」にすることもできます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
140ひもで絵を描く教材
特別支援教育でよく活用される教材の中で、「輪ゴムで図形を作る」ものがあります。線、図形への意識を高めるために便利なものなのですが、肢体不自由校においてはそもそも手の使い方が苦手で、扱うことが難しいという子どもを多く見かけます。
そんな中、県立塙保己一学園の特別支援教育コーディネーターに紹介していただいたのが、右の写真の教材となります。「フィロ」という商品名になります。ペン先を差し込んでいくことで線を描くことができます。もちろん自由に絵を描くことにも使えるのですが、2つ用意して図形の見本合わせてとして活用することもできます。輪ゴムを使うよりも、子どもにとって手指の操作面での負担は少ないようです。
(本校特別支援教育コーディネーター)
126線学習用の枠
前回の125では「縦に積む」ことから「横に並べる」ということで、点から線へという学習の流れを紹介しました。今回は「線の学習」という中でも、様々なバリエーションのものを紹介していきます。『Ⅱ見分ける学習の教材』として想定しています。
最もシンプルな「線の学習」の教材は、「51スライドブロック」となります。運動の始点から終点までがまっすぐで、線の始まりと終わりが明確です。
一方、さらに進んだ内容の教材として、これらのものがあります。「円」「三角形」といったような「終わりのない」線を学ぶためのもの、また、「交差した」線を学ぶためのものです。他にも様々な種類の「線」を学ぶ教材があります。これらの学習に丁寧に取り組んだうえで、例えば「あ」「め」「す」のような、線が複雑に交差したひらがなの学習にも進んでいくことができます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
120簡単につくれるマトリクス
前回119で紹介したマトリクスは、かなり手間がかかったものでした。とはいえ教材は手間暇をかけることが目的ではありません。子供が使いやすければ、子供が学べればそれでよいのであって、教員が出来栄えに満足するために作るのではありません。今回はマトリクスを簡単に作る方法を紹介します。『Ⅱ見分ける学習の教材』となります。
百円均一の店を活用するとよいでしょう。色と形、3×3のものであれば、
・透明(あるいは白)磁石3個、赤・青・黄色の磁石4個ずつ
・動物や食べ物などのシール、3種類を4枚ずつ
・ホワイトボード
・油性マジックペン
・30センチ定規
があれば十分です。
(1)ホワイトボードに4×4の枠を書きます。
(2)磁石にシールを貼ります。
(3)並べます。
完成です。
子供によっては、これで十分に学習することができます。必要に応じて、「すべらせる動きで操作できるようにする」「手で握りこめるサイズにする」といった要素を加えていったのがこれまでに紹介してきたものです。
支援は多すぎても、少なすぎても「その子」には合いません。その子一人一人に合った教材教具を工夫していきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
119不随意運動が入りやすい子のためのマトリクス
マトリクス(属性分類の表)については「②二次元属性分類(色と形のマトリクス)」「㉓色と形以外のマトリクス」「㉕三次元属性分類(マトリクス)」「114栄養素のマトリクス」で紹介してきました。今回は身体を動かそうとすると自分の予期しない動きになってしまう子供たち、すなわち不随意運動が入りやすい子供たちのが扱いやすいように加工したマトリクスを紹介します。『Ⅱ見分ける学習の教材』として考えています。
マトリクスに用いるペグは、50mm×50mm×5mmのMDF材を3枚重ねて、厚みが15mmになるようにしています。厚みが5mm、10mmでは操作がしにくい子供も、15mmになるとだいぶ扱いやすくなります。また、ペグには磁石を内蔵しています。適度な重みがついて操作がしやすくなるほか、枠に鉄板(ホワイトボードの中身)を入れてあるために貼りつき、ふとした子供の動きでペグが枠から外れないようになっています。
枠自体も1つ1つの穴を電動糸鋸でくり抜いてあり、操作しやすくなるように工夫しています。
(本校特別支援教育コーディネーター)
108市販の教材の活用(虹の教材)
市販品にちょっとした工夫をすることで、使い方に広がりが出ることがあります。今回紹介する教材も、市販の「虹」に見立てた教材を2つ組み合わせたうえで枠を用意したもので、色、形、大きさ、大きさの順序といったことを学べるようにしています。『Ⅱ見分ける学習の教材』『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』として想定しています。
使い方としては「真ん中の部分だけを入れる」ことから始めて、「全部を自分で入れる」ことに進んでいくのですが、同じような教材を自分で作るのはとても大変です。一方で市販品そのままでは身体の動かし方につまずきがある子供の場合、操作しにくいということがあります。そこで㉘「市販の型はめの応用 その1」や㉙「市販の型はめの応用 その2」でも紹介しましたように、教材の中身に市販品を使い、枠だけを用意すると、一人一人の子供に合わせやすくなってきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
107縦方向の形態構成
パズル、形態構成は基礎中の基礎、といった教材となります。今回改訂された学習指導要領における、知的障害の特別支援学校の算数科の内容としても、「分割した絵カードを組み合わせること」として示されるようになりました。一方、身体の動かし方につまずきがある子供に関しては厚みのないパズルを操作することは難しく、「①形態構成」「104扱いやすい教材のサイズ その2」において、木に絵を貼り付けて厚みをつけたパズルを紹介しています。
今回紹介するのは、そのバリエーションとなります。「106縦に重ねる見本合わせ」と同様の方法で作られたもので、『Ⅱ見分ける学習の教材』として使うことを想定しています。
平面に絵を構成していくのではなく縦に積んでいくため、下から順に絵を並べていく必要があります。そのため、基本的にはどこからでも枠にはめていける平面の形態構成よりも、子供にとって難しいことが多いようです。
なお、似たようなキューブ状の市販の教材もあるのですが、6面ともに絵が貼られていて、子供にとっては難易度が高すぎることがあります。そのため、この教材では全6面中、2面しか絵を貼っていません。また、磁石を内蔵しているため、上下逆に絵を合わせようとすると、反発して決して重ならないようにもなっています。
(本校特別支援教育コーディネーター)
106縦に重ねる見本合わせ
見本と見比べて、同じように手元のものを操作するという課題は、学習の基本です。最終的には、黒板の板書を見て同じようにノートに書く、といった力につながっていきます。以前も「⑬位置把握課題」「⑯意味のある位置把握課題」「96位置把握の課題(ステップ可変)」など、様々なものを紹介してきました。今回紹介するのも、その一環となります。『Ⅱ見分ける学習の教材』として使うことを想定しています。
これまでに紹介してきたものは、左の写真のように、基本的には平面上の位置を見比べる教材となります。一方、右の写真のような「積み木を同じように積み上げる」形での見比べを行う際には、縦方向という要素が加わります。縦方向の見比べでは下から順に置いていく必要があり、同じ3×2の空間を把握するとしても、平面を把握するよりも難しいことが多いようです。順序性の理解の学習にもなってきます。
ところが身体の動かし方につまずきがある子供たちの場合、「見比べることが難しいから」「下から上へという順序がわからないから」ではなく、操作の段階で活動が困難になってしまうことがあります。積み木を積むこと自体が難しければ、見本と見比べるということに意識は向けにくくなります。
そこで用意したのがこの教材です。10センチ四方のMDF板を6枚貼り合わせた周囲を色画用紙で巻き、さらにその周囲を梱包用のテープで包んでいます。かなりの重みがあり、また、磁石を内蔵しているため、子供のちょっとした動きでずれることがないようになっています。
(本校特別支援教育コーディネーター)
99 二語文の総合と分析の課題 その1(色と形)
子供の理解や表出は、「単語の理解や表出」から「二語文の理解や表出」へと進んでいきます。子供の理解や表出が単語から二語文に移行するのは、およそ50の単語がわかるようになったくらいのタイミングであることが多いようです。今回は、二語文を直接的に教えていく際の教材を紹介します。『Ⅱ見分ける学習の教材』『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』として想定しています。
二語文といっても、色んな種類があります。「あかい りんご」のようなものもあれば、「おとこのこ が あるく」といったもの。「きのう は にちようび」「かんせいな じゅうたくち」といったもの。使っている言葉の内容によって、かなり難しさの違いがあります。その中でも特に子供にとってわかりやすいのが、「色」と「形(身近なもの)」の組み合わせになります。「あかい りんご」といったものです。
この教材の場合、たとえば「きいろい ふうせんを作って」と言われて、「きいろ」のカードと「ふうせん」のカードを選んでいきます(総合)。
また、逆に、「この絵は何?」「色は何?」「形は何?」と聞かれて、「あかいくるま」「色はあか」「形はふうせん」と答えていきます(分析)。「色は何?」で難しかったら色だけのカードを提示する。「形は何?」で難しかったら形だけのカードを提示する、といった支援を行っていきます。
こうやって物事を総合的に捉えること、分析的に捉えることが、いずれは「数」といったような難しい属性に注目する練習になっていきます。二語文の学習と言うと「国語」の勉強のようにも思えますが、「算数」の内容にも密接につながっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)