カテゴリ:Ⅰ.手や目を使う基礎を整える教材
160可変輪抜き
前回の続きとなります。159で紹介した輪抜きは、低くとも、高くとも、一方向でした。運動の開始から、終わる(輪が抜ける)までは一直線。運動の方向付けも一方向です。今回紹介するのは、分岐を伴う輪抜きです。
この教材は、上に向けて運動を起こした後、棒にそって途中で横方向に運動を切り替える必要があります。大人からすると当たり前のような気がしますが、子どもにとっては自分の運動を途中で切り替える、すなわち2つの運動をつなげるというのは、かなり難しいことです。
なお、輪抜きができたから何なのか。それが何につながるのか、という声も耳にします。これは例えば、「一方向の輪抜き」が「スプーンで食べ物を口に運ぶ」シンプルな運動に相当するとすれば、「二方向の輪抜きができる」ということは、「スプーンで食べ物をすくって、それを口に運ぶ」という、2つの運動をつなげる準備になっていくということを意味します。それらの「見通しをもった活動」の練習を、「輪を抜く」という目的がわかりやすい学習の中で行っているわけです。
なお、分岐する数は増えれば増えるだけ難易度は上がります。一方向、二方向、三方向と全部の教材を用意すればよいのですが、それも煩雑です。そこで、一つの教材で、難易度を自在に変えて、子どものそのときの状況に合わせられるようにしたのが以下の教材です。
塩ビパイプをつなげ、その場で難易度を変更し、分岐を増やせるようにしてあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
153大小ペグさし その2
既に⑦⑧「電池入れ」⑪「アクリル棒さし」を紹介してきましたが、その改良版となります。⑦⑧⑪で土台に使っていた端材を、化粧板で表面を加工されたシナベニヤに変更しています。3枚を重ねて接着、そこに27ミリと18ミリのドリルで穴を開けたうえで、底をもう一枚の板でふさいでいるのは従来の作りかたと同じです。また、太い方のペグが縦50ミリ幅25ミリ、細い方のペグが縦50ミリ幅15ミリなのも従来どおりです。
化粧板なので表面がすべりやすく、ざらつかないこと。従来の板よりも重いので土台として安定すること。化粧板の色と穴の部分の色にコントラストが出るので、子どもが穴に気づきやすくなること、といったことがメリットとなります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
141六面体の教材
子どもがカードを黒板やホワイトボードに貼る際、磁石がついていない面を黒板等に向けてしまって、なかなかうまくいかない…ということがあります。であれば、すべての面に磁石がついていればどうなるでしょうか? どの面にも同じ絵を貼ってあげれば、すごく扱いやすい教材になるのではないでしょうか? そのようなコンセプトから作られたのが、この教材になります。
磁石の反発を押さえてボンドで固定するために、かなり多くの木、本などで重みをつけて強引に押さえてつけています。
実際に作成してみると六方向に働く磁力が互いに打ち消し合い、貼りつく際の磁力が弱くなってしまいました。木のサイズがもう少し大きければ、磁力の干渉の具合が変わってくると思われます。しかし木が大きすぎると重くなりすぎ、また手に収まりにくくなるでしょう。それぞれの子どもの課題に合わせて、教材教具の工夫を行っていきます。
完成品です。同じ絵と絵が、どの面同士であってもくっつきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
127各種スイッチ教材と因果関係の理解
「48積み木倒し」「72押したら鳴る教材」でも物事の因果関係の理解に向けた教材を紹介してきました。因果関係の理解というのは、「ボタンを押したらブザーが鳴る」「積まれている積み木を触ったら倒れる」といったように、「何かをしたら」「何かが起きる」ということに見通しが持てるということです。
因果関係の理解は様々な教材を通して学ぶことができますが、今回紹介するのはスイッチによるものです。スイッチ教材といっても、様々なものがあります。前半の「何かをしたら」ということについては、レバー式のもの、ボタン式のものなど。また、「何かが起きる」ということについては、「ぬいぐるみが動く」「扇風機が回る」「音が出る」など。それらの組み合わせにより、子供にとっての分かりやすさが変わってきます。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
例えば「赤外線センサーで水が流れるトイレ」があるとします。これもある意味スイッチ教材の一種であるわけですが、子供にしてみると赤外線センサーよりも、レバーを倒したり、ボタンを押したりした方が「自分が何かをした」ということに気づきやすいでしょう。したがって、「赤外線センサーで水が流れるトイレ」などは因果関係の理解がわかりにくいということになります。
また、ボタンを押すようなスイッチだったとしても、その結果が「ボタンを押して10秒後に、ぬいぐるみの目が一瞬だけ動く」といったものだったらどうでしょう。これもまた、子供にとって因果関係の理解がわかりにくいということになるでしょう。
「何かをしたら」「何かが起きる」ということについて、子供にとってわかりやすいものから、徐々に学習を積み上げていきます。それらの小さな見通しの積み重ねが、毎日の生活の中での、見通しを持った行動につながっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
125縦に積むことと、横に並べることの違い
たとえば「③鉄球入れ」で紹介した教材ですが、鉄球を枠に入れていくにしても、「縦に入れていく」場合と、「横に並べていく」場合とがあります。大人にしてみるとどちらも変わらないような気がするのですが、子供にしてみると難易度に大きな違いがあり、「横に並べる方が難しい」ということが多いようです。
縦方向の学習からはじめ、横方向に進んでいきます。それは、筒という「点」に入れていくということから、横に並んだ穴という「線」に入れていく学習に進んでいくということでもあります。さらに学習が進んでいくと、「⑪アクリル棒さし」で紹介したような、「面」を捉える学習にも取り組めるようになっていきます。これらの点から線、面へといった学習は「点結び」「迷路」といったプリント学習、タブレットのアプリでも行うことができるのですが、やはり、実際の教材を操作していくことで学びやすいことがあるようです。
(本校特別支援教育コーディネーター)
117ジッパーの教材
衣服の着脱なども、本校における重要な学習内容となっています。一方で身体の動かし方につまずきがある本校の子供たちにとってはジッパーの操作などを実際の衣服で行おうとすると難しいことがあり、ジッパーの仕組みを知るために、教材を通して学ぶことがあります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として考えています。
木に固定されたウサギの口がジッパーになっており、リンゴやニンジンなどを入れ(食べさせ)たり、取り出したりします。これらの学習を通して、子供たちは基本的の手の使い方、道具の使い方を学んでいきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
115ブタコイン
あらゆる子供の学習において、基礎的な内容となるのが、ボールを「入れる」積み木を「はめる」輪を「抜く」といった、『物事を終わらせること』すなわち終点理解の学習となります。1つのことを終わらせることが、様々な物事に見通しを持つ力へとつながっていきます。
終点理解を主たる目的とした教材としては、「③鉄球入れ」「④一方向/多方向輪抜き」「⑥丸の型はめ」「⑦電池入れ」「⑪アクリル棒さし」「㉔カラーコーン重ね」「51スライドブロック」などを紹介してきました。今回紹介する通称「ブタコイン」もその一環で、『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として考えています。
具体物を「穴に入れる」ということを考えたとき、一番難易度が低いのはボールなどの球状のものでしょう。次に、電池などの円筒状のものになるでしょう。四角いもの、三角のものなどは角を合わせる必要があるため、難易度が上がります。
コインは、円盤状の形をしています。これを穴に入れる際には方向を合わせる必要があり、子供にとってはかなりの難易度となってきます。また、方向を合わせる際には手首をひねることになり、スプーン、フォークといったものを使う際の基礎学習ともなってきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
112形態構成のバリエーション
形態構成、すなわち1枚絵を分割したパズルは基本的な教材であるため、「①形態構成」「104扱いやすい教材のサイズ その2」「107縦方向の形態構成」といったように何度も紹介してきました。今回もそのバリエーションの一つとなります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
形態構成の難易度を上げるのは簡単です。分割する数を増やせば増やすだけ難しくなります。文字や数を学習するなら6~8分割くらいはできていてほしいですし、大人でも、16分割あたりになるとかなり苦戦するでしょう。
一方で難易度を下げるにはどうすればいいでしょうか。当然、分割する数を減らします。二分割、あるいはそもそも分割しない(ただの四角い型はめパズルとなる)ということも考えられます。一方、この「無分割」パズルと「二分割」パズルとの間の難易度の違いはかなり大きく、子供によっては習得が年単位でかかるものになっていました。
そこで、「無分割」パズルと「二分割」パズルとの間に設定したのが右の教材となります。絵と絵の切片をギザギザにしてあるため、絵が合わない限り、パズルのピースは枠にはまりません。見て分かる前の、手ごたえに頼った学習になっています。
このように、子供がスモールステップで学べるように、様々な工夫を行っています。
(本校特別支援教育コーディネーター)
73 輪抜き/輪通しの教材
④で紹介した輪抜きの教材ですが、今回は輪抜きに使う棒やペグの工夫を紹介していきます。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。最も簡単に手に入る組み合わせは、百円均一のお店で売っている「キッチンペーパーホルダー」と、輪になっているものなら何でも、というところになるでしょう。今回の棒は、安定感を出すために太さ20ミリ長さ200ミリの木材を、土台に差し込んで作成してあるものです。
輪抜きは、「ここ(輪を持った時点)からここ(輪が抜けるところ)まで」という、終わりに向けて運動を持続させていく学習になります。子どもにとって、「何をすればよいのか」というのが明確になります。また、身体の動かし方が苦手な子にとっては、手首等の使い方の練習にもなってきます。
以下の教材は、手首の使い方、目の使い方を練習するために特に工夫してあるものです。穴が板の中心にあるものから始まり、徐々に持ち手が長くなっていきます。持ち手が長くなるにつれ、手首の動きや、目の使い方を調整する必要が出てきます。
次の教材は、持ち手をL字状にしたものです。これを上手に抜く、あるいは棒に通すといった場合、かなり手首や目の使い方を調整する必要があります。
このように輪抜きの教材といっても、何を用いるのかということにより、だいぶ難易度は変わります。子どもの学習の目的に合わせて選択していくことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
72 押したら鳴る教材
今回は百円均一のお店などで売っている、市販の教材を紹介します。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。子どもの分かる力の発達を考えていくとき、最初に考えられるのが㊼「保冷剤」や63「アリスのティーパーティー」のような教材で、「触ること」「揺れること」「回ること」など何らかの感覚に気づくことです。その中でも、文字や本、絵、動画のような「見る」教材には子どもはなかなか気づきにくいということは繰り返し紹介してきました。
今回紹介するのは、握ったら音が鳴る教材です。「音が鳴ったことに気づく」ことが最初の気づきだとすれば、「握ったから音が鳴る」という気づきは、その次のステップの気づきとなります。これを『因果関係の理解』と言い、㊽「積み木倒し」と同じような目的となります。同じような目的の学習に、押したら扇風機が回るスイッチ、押したら振動するスイッチ、触ったら画面が変化するタブレット端末のアプリなどがあります。
「こうしたらこうなる」という経験を積み重ねる中で子どもの予測する力が育ち、「これはこういうものだろう」ということが見ただけでわかるようになっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)