カテゴリ:Ⅳ.文字や数を身につける際の教材
105 様々な「並べる」教材
世の中には「色」「形」などの様々な属性、概念が存在します。それらの特定の属性や概念に注目して分けたり、選択したり、比較したりすることによって、子供の抽象的な思考が育まれていきます。「大小」「長短」といった比較概念においては「分ける」「選ぶ」「比べる」だけでは十分ではなく、その先の、「並べる」「順序付ける」という学習もまた、子供の思考をめぐらせていくうえで、非常に重要な学習となってきます。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』として考えています。
大小を並べる教材は、市販されています。枠などを用意し、子供が扱いやすいようにします。
「並べる」学習には様々なものがあります。「数字」はもちろん、あいうえおの「ひらがな」、「曜日」、「重さ」「冷たさ」「地名を北から順に」「人名を時代順に」「キャラクターを強い順に」「場面を時系列に沿って」「山手線の駅名を一周」などなど。
曜日を並べることなども、「げつようび」以外の曜日から始めると、意外なくらい子供の戸惑う姿が見られることがあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
102 数字の種類はいくつある?
数字は身近なものですが、「実はそうだったの?」ということも多い不思議なものです。今回は、その数字の種類について紹介していきます。およそ算数科の内容、『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
数字の数、と述べましたが、これは我々が普段よく目にする算用数字、アラビア数字のことです。子供の場合、数は無限にあるのだから、数字も無限にある…という感覚で数字を捉えていることがあるようです。しかし実際には、数字は0123456789の『10』種類しかありません。
「その『10』は数字じゃないのか?」という子供の声も聞こえてきそうなのですが、これはあくまで「1」と「0」の2つの数字を配列することによって、十の位が1つ、一の位が「ない」ということを表しているというものです(位取り記数法)。
この辺の理解が確実でないと、「0」を「じゅう」と読むようなことが起きてくるようです
ですので、数字をどのように表記するか?ということも大事になってきます。
中央に持ってくるのか? 右によせるのか? カレンダーの日付など2桁以上の数量をどう表すか? 一枚のカードにおさめるのか、あるいは個々の数字の組み合わせで表すのか?
ささやかなことですが、それらの積み重ねが、子供の数概念の形成に影響してくるようです。
98 文章題について(引き算)
足し算は基本的に『合併』と『増加』の2種類ですが、その両者にそれほど難易度の違いはないようです。一方、引き算はと言うと、大きく分けて『求残』『求部分』『求差』があり、これらの難易度は全く、と言ってよいほど異なってきます。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
求残』は一番わかりやすい引き算です。「豚が5匹います。2匹いなくなりました。残りは何匹ですか」といったように、「残り」を求めます。「5-2」の引き算らしい引き算です。子供にとって意味が分かりやすく、状況のイメージがしやすいです。
一方、『求部分』は相当に難しくなります。「動物が全部で5匹います。うさぎは2匹です。ぶたは何匹ですか?」といったように、全体と部分の関係を捉える必要があります。式としては「5-2」で同じなのですが、そこに込められている意味は全く違います。
さらに『求差』は難しくなります。「うさぎが5匹います。ぶたは2匹です。どちらがどれだけ多いですか?」というものです。これも「5-2」ではあるのですが、これが引き算であること自体、非常にイメージしにくいようです。
「引き算ができる」と言うと「『5-2』の計算ができること」「繰り下がりができること」といった印象があるかもしれません。しかしそれらは最終的には「指を使う」「ドットを書く」といった方法でも対応できます。しかしながら文章題で問われてくるのは引き算の意味、文章の理解、状況をイメージする力となってきます。
身体の動かし方につまずきがあると、どうしても実体験が不足しがちで、自分の経験に置き換えて考えることが難しくなってきます。だから問題文について、その状況のイメージがしにくくなりやすいようです。ミニチュアなどを操作して考えること、教員と一緒に絵を描いて考えること等、丁寧に学習を進めていく必要があります。
大人にとっては『求残』『求部分』『求差』のいずれも、そう違いなくできてしまうのですが、子供にとっては大きく違います。その壁を越えていけるように、一人一人に手立てを講じながら支援を行っていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
97 文章題について(足し算)
今回は、小学校の算数科の内容を学んでいくにあたり、つまずきやすいポイント、「文章題」について取り上げます。特に、足し算よりも引き算につまずく子供が多いことでしょう。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
一言に足し算、引き算と言いますが、それぞれに何種類かずつあります。足し算は大きく分けて2つで、「Aくんはりんごを3つ持っています。Bさんはりんごを2つ持っています。あわせていくつですか?」という『合併』と、「豚が3匹います。そこに2匹の豚が来ました。豚は全部で何匹になりましたか?」という『増加』です。
これらは式にしてしまうと「3+2」で同じなのですが、意味としては異なります。これらの意味の違いというのは口で言われたり、絵を見たりするだけで理解するのはなかなか難しく、友だちと遊ぶ中で自分で体験したり、具体物を操作したりするなどして身につけていくことになります。身体の動かし方につまずきがあるということは、それらの実体験が伴いにくいということになります。引いては、これらの場面のイメージが育ちにくいということになります。
子供は問題文を聞いたり読んだりして立式をするときに、「3」「2」「あわせて」などキーワード「だけ」を拾って式にしていることがあります。答えが正しいかどうかだけでなく、どこまで文の内容全体を把握し、それを式にできているのでしょうか。
64~65で紹介しましたように、「足し算をする」だけなら、指を使ったり、ドットを書いたり、あるいは計算機を使ったりすれば答えは出ます。しかしながら「足し算がわかる」ということになると、『合併』『増加』それぞれの場面がイメージでき、自在に式に置き換えることができるということになるのではないでしょうか。
それを踏まえてどういう取り組みができるのかと考えていくと、例えば「文を読む→文の内容を絵に描く→そのうえで式にする」といったように、意味と、式とをつないでいく学習。「3+2という式をもとに絵を描く、問題文を作る」といった学習なども、子供のイメージの育ちを確かめていくことになるのではないでしょうか。
(本校特別支援教育コーディネーター)
94 一対一対応(数の保存概念) その4
前回の続きになります。具体物の「多い/少ない/同じ」の学習を丁寧に進めていくこと、そしてそれを確かめる方法として一対一対応を身につけていくことが、その先の数詞や数字を駆使した学習につながっていくことをお伝えしてきました。
一対一対応をするということは、牛でもねずみでも、大きい羊も小さい羊も、好きなキャラクターも嫌いなキャラクターも、そんなことは関係なく、「一つのものは一つ」として「数の観点からすると等価値」であるという抽象的な思考ができることでもあります。
「〇〇マンは大好きだから、こっちのほうが強い!」「牛さんの方が大きいから、こっちがすごい!」といった感覚では、数量同士の比較、一対一対応はできないわけです。色も形も大きさも好きかどうかも関係なく、「数」ということだけに注目することですので、かなり難しい思考になります。ですので、基本的には小学校1年生の算数は具体物同士の一対一対応から始まります。それができてはじめて、ドット(・)に置き換えたり、数詞(イチニサン)に置き換えて比較したり、数字(123)に置き換えて比較したりということができるからです。
よく見るとどのフィギュアもみんな違うのですが、数の観点からすると「みんな等しい」。この思考を育てます。
「数『だけ』に注目する」というのはかなり難しい思考です。そこにたどり着くために、これまでに紹介してきたようなマトリクスや弁別といった学習を通して「色に注目する」「形に注目する」「大きさに注目する」といった練習をしていくわけです。
また、一対一対応を学ぶためには、そもそも「動かしても、数は変わらない」という数の保存概念が成立していないと困難です。具体物を動かして比較しますから。
これが成立していないとき、子供は「これいくつ?」と言われて「1、2、3、『3』」と答えたとしても、その位置を変えてもう一度聞かれたときに、また「1、2、3」と数えなおしてしまいます。身体のつまずきがある子供の場合、公園での砂場遊び、積み木遊びといった経験が不足しがちなことから、「動かしても量は変わらない」という感覚が身に付きにくくなります。それが算数の学びにくさといったことにつながっていくのですが、だからこそ、特別支援学校では教材を工夫し、内容を工夫し、一人一人の子供に合わせて授業を工夫していくことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
93 一対一対応(数の基数性) その3
前回紹介した一対一対応からのステップですが、身体の動き、特に手の使い方が苦手だと具体物を操作する経験も不足しがちです。具体物の量を比べたり、取り出したりといった学習が十分でないままに数字の学習を進めていくと、どういうことになるでしょうか。
たとえば、ということで以下のような課題が難しくなりがちです。
「12の大きさはこのぐらい。では20の大きさはどのくらい?」
で20の大きさの丸を書いてもらいます。この場合、書くことの難しさから課題に取り組みにくいことがあります。そんなときには以下のような課題もあります。
「『8』はどのへん?」
これらの課題は、加減算をサクサクとこなしているようにみえる子供であっても、意外と難しいことがあります。数字の背景にある、量の感覚が十分に身についていないためです。具体物を使うような課題はとっくにクリアしている…と思いつつも、少しだけ振り返ってみて、具体物同士の「どっちが多い」の比較、「『4』と〇〇〇」「『5』とグループの友だちの数」といった数字と数量の比較なども復習してみてはどうでしょうか。
(本校特別支援学校コーディネーター)
92 一対一対応(数の概念の基礎) その2
前回の続きになります。羊の集団を比べることに成功した人類ですが、「遠くにいて直接比べることのできない羊の集団を比べるには?」だとか、「隣の山と自分の山とではどっちの木が多いのか?」といった、次のステップの課題に直面することになっていきました。
離れたところにある集団同士、あるいは動かせないもの同士をどうやって比べるのか? 放牧していた羊が減ったかどうかをどうやって調べるのか?
人類というのはすごいもので、木であれば「1つの山の木にロープを巻き」「そのロープを隣の山に持って行って余るかどうかを確かめる」ということを発明するわけです。おそらくは羊一匹に石一つを対応させる、といったことから始まったのでしょう。
そしてやがて人類は「イチ、ニ、サン、シ、ゴ」という音の順番に数量を対応させれば便利!ということに気づき(数詞の発明)、さらにはその数詞を記号にして粘土板に刻めばもっと便利!(数字の発明)ということに気づくわけです。
子供の学習もまた、具体物を直接比較するということの学習から、「具体物をドットなどに置き換えて比較する」「具体物を数詞(イチ、ニ、サン)に置き換えて比較する」「具体物を数字(123)に置き換えて比較する」というように進んでいきます。
算数の勉強と言うと「5+2=7」のように数字の操作という印象があるかもしれません。しかしそこにたどり着くためには、具体物を操作することからの、「抽象的な思考のステップ」を丁寧に踏んでいく必要があります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
91 一対一対応(数の概念の基礎) その1
今回は、「一対一対応」について説明していきます。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
「一対一対応」というと、「お皿の上に1つずつ物を置いていく」活動だとイメージされやすいようです。「一対二対応」だと、お皿の上に2個ずつ置いていくことになります。これらの学習自体もたしかに大切なのですが、数の前段階として考えると、これだけでは必ずしも十分とは言い切れないようです。
そもそも、一対一対応というのは何のために行うのでしょうか? その成り立ちを考えると「人類が数の概念を獲得する前」までさかのぼります。一対一対応を最初に発明した人の名前は残っていませんが、遥か昔に、おそらくはユーフラテス川のほとりあたりで、羊や山羊を飼っている人がいたのでしょう。そして、隣で羊を飼っている人と「どっちの羊の方が多い?」ということになったのでしょう。本当のところはわかりません。
それで、大昔の人はどうしたのか? なにしろ、数の概念はありません。「イチ、ニ、サン」という数詞は発明されていませんし、「1、2、3」という数字も発明されていません。
こういう状況です。
おそらくはこうやって一匹ずつ、羊を対応させて「余った方が多い」ということを確認したのでしょう。
つまり、一対一対応というのは「多い/少ない」ということを確かめる方法だということです。左の写真では、積み木の方が余るから、積み木の方が多いことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
87 位置の学習5×5
前回に続き、「前後左右」と「上下左右」といった位置関係を示す言葉を学ぶための教材です。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』となります。
A「上から3番目、左から2番目はどこですか」といった絶対的な位置
B「ひよこの向かって右に2つ、後ろに1つはどこですか」といった相対的な位置
といったことを教員が質問していき、子供が指差しで選んでいきます。そのうえで合っているかどうかを「磁石がはりつくか/はりつかないか」で子供自身が確かめていきます。3×3のときとは違い、上の板を取り外せるようになっており、その場でどこの位置に磁石が貼りつくのかを変えていきます。
なお、この教材は上の板さえ変えてしまえば最大で7×5の表を表現できるので、マトリクスの枠として使ったり、20までの数量の取り出しに使ったりと、多用途に用いることができます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
86 位置の学習3×3
今回紹介するのは、「前後左右」と「上下左右」といった位置関係を示す言葉を学ぶための教材です。『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』となります。
「前後」や「上下」に比べると、「左右」の概念は比較的身に付きにくいものです。これは身体の動かし方につまずきのある子供にとっては特に顕著に見られる傾向です。自分の身体を動かす経験が少ない結果、自分の身体というもののイメージが育ちにくく、左右の概念も育ちにくいのだと言われています。また、位置関係だけでなく、「大きさ」「高さ」「速さ」「広さ」など、大人が子供の頃に公園や野山で遊ぶ中で身につけてきたような、「自分の身体を物差しとした概念」なども育ちにくいようです。
※人は自分の身体を物差しにして周囲の世界を捉えていくので、子供の頃に広く感じた校庭や公園が、大人になってから訪れると狭く感じる。身体という物差しそのものが変わってしまったため。
育ちにくいからこそ、その指導を工夫していきます。
この教材は3つセットになっていて、それぞれ「中央」「上下左右の端」「斜めの端」の1か所だけ磁石が貼りつくようになっています。他は、反発します。この3種類があれば、3×3の場所のすべてを指定することができます。
A「上はどこですか」「右はどこですか」など、絶対的な位置を聞く質問
B「あひるの右はどこですか」「あひるの前はどこですか」など、相対的な位置を聞く質問
を行い、子供に指差しで答えてもらった後、本当に合っているのかどうかを磁石を貼って確かめていきます。繰り返しになりますが、「合っている/合っていない」を教員に言われるのではなく、手ごたえによって自分自身で確かめられるようにする、というのが重要です。
なお、これらの直接的な学習も重要ですが、電動車いすや寝返りなども含めて「自分自身で移動する」経験が空間的な理解を育てていきます。積み木など、各種教材をたくさん操作していくことなども大切で、そこで日ごろの自立活動での姿勢を整える取り組みがいきていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)