カテゴリ:Ⅰ.手や目を使う基礎を整える教材
63 アリスのティーパーティー
今回紹介するのは、本校のオリジナル教材「アリスのティーパーティー」です。長年使用されている教材になります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として紹介していきますが、場合によっては「回転しながら文字を読む」といった目的でも使っていけます。
遊園地における、いわゆる「コーヒーカップ」と似通ったコンセプトの教材です。安定した土台と、回転する上部に分かれていて、座位が取りにくい子どもでも、安全に取り組むことができます。「前庭感覚」を楽しむ教材です。
「前庭感覚」というのは、頭の傾きや、動きをとらえる感覚です。「頭の傾き」や「頭の動き」というのは生物にとってとても重要な情報ですので、これをとらえる「前庭感覚」というのは、かなり早くから子どもに備わってきます。
しかしながら「前庭感覚」とひとことで言っても、実際にはいくつかの感覚の集合体となります。たとえば、大人の中でも「ジェットコースター(加速)の得意不得意」「コーヒーカップ(回転)の得意不得意」「絶叫遊具(落下)の得意不得意」など、千差万別のはずです。
加速は好きだけれど落下系はどうしてもだめだとか、回転だけはどうしてもだめだとか、色んな人がいます。子どもも同様で、ブランコ(加速)は好きだけれどトランポリン(落下)は苦手だとか、回転遊具は好きだけれど車いすの急発進は苦手だとか、色んな子どもがいます。中には、エレベーターのふわりとする感覚がどうしても苦手だったり、足が地面から離れるだけでもものすごく怖くなったりする子もいます(重力不安)。仰向けになることでも不安になりやすい子がいます。
今回の「アリスのティーパーティー」は前庭感覚の中でも、「回転」にアプローチする教材となります。なお、「アリスのティーパーティー」の名称は、上部のタライに「不思議の国のアリスの絵がプリントされていることに由来します。
(本校特別支援教育コーディネーター)
62 ハンドスピナー
今回紹介するのは、市販品の「ハンドスピナー」です。大好きな子どもも多いかと思います。該当する発達のステージはこの教材を使用する目的によって変わるのですが、今回は『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として紹介していきます。
長時間回転し続けるハンドスピナー。じっと見入っている子どもも多いのですが、どうしてなのでしょうか? そもそも「見る(視覚)」というのは難しい感覚のはずです。㊼で紹介しましたように、子どもが最も気づきやすいのは「前庭感覚(揺れ・傾き・加速・回転)」「固有感覚(力の入り具合、関節の曲がり具合)」「触覚」のはずです。
「見てわかる」というのは難しいことです。なのに、多くの子どもがハンドスピナーを好きですし、ドアの開閉が好きな子もいます。TVの番組や、タブレットの映像が好きな子もいます。
これは「見る」といっても、見ることの働きが「色や形を見分ける」ことと、「光や動きを感じる」こととでは、大きく違うからです。子どもが好きな視覚情報というのは、多くは「光っているもの」「動いているもの」になるでしょう。実際のところ、「色や形」と「光や動き」とでは、目の中でも使っている部分が違います。「色や形」を見ているのは、眼球の中心のほんの少しの部分で、『中心視』と言います。「光や動き」を見るのはその他の周辺部分で、『周辺視』と言います。見ることの学習は、光や動きに気づくことから始まり、色や形を見分けることへと進んでいきます。
中心視と周辺視とでは、得意・不得意があります。大人はそれを自在に切り替えていて、キャッチボールをするときなど、物の動き全体を捉える必要があるときには周辺視を、パズルをするときなどには中心視を使っています。特に文章を読むときには、全体を大まかに捉える周辺視と、個々の文字を見分ける中心視を円滑に切り替える必要があります。
また、すごく暗い星を見る時などには、目の中心で見ようとしても難しくて、目の端の方で見たほうが見えやすいということがあります。「光や動き」を捉えやすいのが、周辺視の特徴だからです。
(本校特別支援教育コーディネーター)
51 スライドブロック
今回紹介するのは、「スライドブロック」です。目的としては「⑨立体迷路」とほぼ同じなのですが、難易度が調整できるようにしてあること、高さがあるのでペグが「落ちた」ということに気づきやすいという特長があります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
このスライドブロック、百円均一の店で売っているスチロールのブロックを掘りこみ、缶を差し込むことで作られています。また、フローリング用の素材を表面に貼ることで、ペグがすべりやすいようにしてあります。
このスライドブロックは、最初は「少しだけ動かしたらペグが落ちる」というところから始めていきます(点)。そしてすこしずつ距離を取り、一定の距離をすべらせてから落とすようにしていきます(線)。そのうえで、折り返しがあるなど、方向を切り替えながら落としていきます(面)。
このスライドブロックでは表現できませんが、最終的には高さも伴って空間的に操作すること、さらにはタイミングを合わせて時間的に操作すること…といったように、どんどんと巧緻性を増していきます。これは「点→線→面→空間→時間」という空間を捉える力の発達でもありますし、操作している時間が「瞬間的」であったものが、どんどんと「持続的」になっていくという時間を捉える力の発達の過程でもあります。
ツリーチャイムのような「さわることによって変化が起こる」教材なども、子どもが瞬間的にさわっていたのから持続的にさわるようになり、音楽に合わせてさわるようになり…と次第に持続的に、複雑に触れるようになっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊽積み木倒し
今回紹介するのは、様々なところで手に入る積み木です。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
前回の㊼では、「触れたものに気づく」ということの取り組みを紹介しました。その次のステップとして、自分から触ろうとすること、すなわち「自分がしたこと」と「その結果」の関係性がわかる『因果関係の理解』があります。
触ろうとするためには、「おや、なんだろう?」という気づきが必要となります。その力を育てやすいのが、わずかな手の動きで大きな結果が得られる(ガラガラと大きな音と振動がする)積み木倒しです。子どもたちは自分のやったこととその結果を経験する中で、「~をしたらどうなる」ということを学んでいきます。そして、どんどんと手を使って自分の外の世界に働きかけていくことになります。本校の子どもたちはその際に身体が動かしにくいということがあるのですが、そこを様々な装具や、身体の取り組みを通して補っていきます。
積み木倒しと一言で言っても、「どこに置くのか」ということで子どもにとっての難易度は変わってきます。手前に置くか、奥に置くか。子どもによって違うのですが、手元に引き付ける手の動きがやりやすくて、奥に手を差し伸べる方が難しいことが多いようです。
㊼は基本的に「さわられる」ことの学習でしたが、この㊽では、自分から「さわる」ことの学習となります。この学習のためには、他にも楽器だとか、様々なスイッチ教材などがあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊼保冷剤
今回紹介するのは、様々なところで手に入る保冷剤です。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
人には、様々な感覚があります。よく「五感(視覚/聴覚/触覚/味覚/嗅覚)」と言われるのですが、実際にはそれだけではなく、たくさんあります。例えば目をつぶって「グー・チョキ・パー」を作る際に使っている感覚は、「五感」のどれにもあてはまりません。
基礎的な内容を学んでいる子どもたちの場合、以下の3つの感覚を通して世界を捉えていることが多いようです。
「前庭感覚」…頭の傾き、回転、加速、落下といったことを感じ取ります。平衡感覚とも。
「固有感覚」…筋肉や関節の曲がり具合を感じ取ります。重さや手ごたえ等です。
「触覚」…点字を触り分ける際などの狭い意味での触覚のほか、痛み、温かさ、圧迫、振動などを感じ取ります。自分の身体と外の世界との接点となります。
大人になってしまうとこれらの感覚を意識することは少なくなりますが、子どもたちの発達を考えたとき、この3つの感覚を整えていくことが非常に重要となります。毛布ブランコ、トランポリンなど、子どもたちが気づきやすい活動の中に多く含まれている感覚となります。その中でも触覚、特に手のひらの触覚は重要です。「さわる」ことから「見る」ことにつながっていくからです。「手のひらに何かが触れていることに気づく」ことから学習は始まっていきます。
「触覚」には様々な感覚が含まれるのですが、その中でも「冷たさ」と「振動」「重さ」は比較的子どもが気づきやすく、学習に取り入れやすい感覚になります。冷蔵庫で冷やした(冷凍庫だと低温火傷をしてしまうので)保冷材に触れ、「おや、なんだろう?」ということに気づいていきます。保冷材のほかにも、スライム、植木鉢に給水するためのゼリーボールなどでもよいのですが、子どもが口元に持っていくこと等に気を付ける必要があります。
最初に戻りますと、我々が目をつぶっていても「グー・チョキ・パー」を作ることができるのは、「固有感覚」によって手の筋肉や骨の状態をモニターしているから、ということになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊶市販の教材の活用 入れる教材
今回紹介するのは、市販の玩具です。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。この教材そのものも非常に使いやすいのですが、この教材に付属しているボールだけを取り出して色分けだとか、筒入れだとかに使うこともあります。このボールは直径45ミリで、子どもの手にすぽりと収まり、なおかつ間違って食べてしまいにくいようなサイズになっています。
使い方としては、多くは「入れる」ということを学ぶために使っていきます。また、入り口にボールを入れるとぐるぐると回りながら下に落ちていくので、追視の学習にもなります。ボールを入れてから「チャリン」と音が鳴るまでに一定の時間があることで、物事の因果関係を学ぶ学習にもなります。
そのままでもよいのですが、いくつか手を加えるとさらに子どもに合わせやすくなります。例えばこの写真では、入り口をセロテープで狭くしています。そのことでボールを入り口で固定することができ、「ボールを持って入り口までもっていく」という運動が難しい子どもであっても、最後の一押しをすることで「ボールを押し込んで入れる」ということができます。
また、入れるボールによってもだいぶ変わってきます。例えばゴルフボールなどはほぼ同じサイズですが、入れるとすごくゆっくりと落ちていき、追視がしやすくなります。また、直径45ミリの鉄球を入れると、ガチャン、ガチャンと重厚感のある音を立てながら落ちていき、子どもが気づきやすくなります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
教材紹介㉞「さわってわかる教材」
今回紹介するのは、市販の教材です。元々教材として販売されているものもありますし、別の用途のものを教材として用いている場合もあります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
子どもは、最初から目を上手に使えるわけではありません。たくさん手を使い、手ごたえや重さ、感触などを確かめ、やがて目で見ただけでそれがどういうものであるのかがわかるようになっていきます。そのため、目の使い方を学ぶためには、まず手を使うことを学んでいく必要があります。
『感触』とは言いますが、つるつる、ざらざらといった狭い意味での「触覚」だけではありません。「手ごたえ」「重さ」「暖かさ」「痛さ」「圧迫」「振動」など、さまざまな情報が手から入ってきます。教材を口で確かめれば、「歯ごたえ」「におい」「味」なども入ってくることでしょう。
それらの感覚の中でも、特に気づきやすいのが「振動」となります。振動は触覚だけでなく、骨や筋肉などにも入ってくる感覚だからです。触ると震える「ミニ・ドーム」は子どもにとってとてもわかりやすい教材です。押すとドームの中の細かいものが飛び散ることもあり、目の使い方の学習にもなります(「光」と「動き」は、視覚情報の中でも気づきやすい情報になります)。
とはいえ「ミニ・ドーム」や「ライトムーブ」などの製品は高価なものです。「振動に気づく」「触ったことに気づく」という目的であれば、安価なマッサージ器具を使っていくこともできます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㉖ハンマーたたき
今回紹介するのは、市販のハンマーたたきです。ただ、ハンマーはグリップが長いものに変更していますし、ボールもかなり強く叩かないと落ちない大きさのものに変更してあります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
子どもは最初のうちは、肘や手首を固めて、肩の動きでハンマーを振っていきます。徐々に腕の動きが分化し、肩ではなく肘を使うように、そして手首のスナップをきかせて振り下ろすようになっていきます。肩→肘→手首と身体の末端の部位をコントロールできるようになるにつれて、叩き損じなども減っていきます。
このハンマーたたきのように、手首を自在に使うことを練習していく中で、スプーンやフォーク、そして箸や鉛筆といった道具を扱う基礎が整っていきます。「食べこぼしが気になる」「運筆がぎこちない」といったとき、スプーンや鉛筆の練習自体に取り組むというのが最もシンプルな発想ですが、このハンマー叩きのように、より基礎的な手の使い方を練習してみてからスプーンや鉛筆を使ってみる、といった道筋もあるのではないでしょうか。
(本校特別支援教育コーディネーター)
教材紹介㉔「カラーコーン重ね」
今回紹介するのは、百円均一の店舗で売っているカラーコーンを重ねていく教材です。土台については、教材が動きにくいように木や皿などで自作しています。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
③の鉄球入れや⑪のアクリル棒さし、電池を筒に入れるといった学習を経て、子どもは「入れて終わる」という活動の終点を学んでいきます。球や円筒状のものは筒に入れてしまえばもう取ることができませんが、コーンの場合、いちど重ねてもまた取り外せてしまいます。そのため、「重ねる」教材は「入れる」教材よりも『終わり』に気づきにくい、難易度の高い教材となります。
そのため、コーンの中に百円均一の店舗で売っている、強力な磁石を固定することもあります(瞬間接着剤などを用います)。そうすることで一度くっついたコーンがなかなか離れないため、子どもにとって重ねたら『終わり』ということがわかりやすくなるためです。また、「色」というのは子どもにとって比較的気づきやすい属性ですが、その弁別を行うにあたっても、2色までであれば磁石のN極とS極を利用して、「色が合っていたら重なり/合っていなければ重ならない」という状況を作ることもできます。色を見分けるところから、形の見分け、大きさの見分け、種類の見分けといったところに進んでいきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
教材紹介⑰「球と輪の弁別」
今回紹介するのは、③の鉄球入れと、④の輪抜き課題で使った教材を組み合わせた学習活動になります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』、あるいは『Ⅱ見分ける学習の教材』として使うことを想定しています。
球を筒に入れる、輪を棒に通す、コインを貯金箱に入れる、カラーコーンを重ねるなど、複数の教材を取り扱えるようになると、弁別の学習を行うことができるようになります。
「弁別」には、様々な視点があります。色の弁別、形の弁別、大きさの弁別、長さの弁別、季節の弁別、種類の弁別、陸海空の弁別等々。多くは、それらの違いを見分けていく学習です。
その中でも、最初に取り組みやすいのが「球との輪の弁別」のように、そもそも『失敗することができない』弁別となります。右の写真は色の弁別ですが、この場合、子どもは間違えたとしても間違えたこと自体に気づかないかもしれません。
一方、球は棒にささりませんし、輪は筒には通りません。子どもは手ごたえによって「おや?」と違和感に気づき、目で確認していくことになります。そして、試行錯誤的に入れていたのから、実際に試してみる前に「入りそう/入らなそう」ということがわかるようになっていきます。手をたくさん使うことから、目の使い方が育っていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)