本校の教材教具
175「探り当てる」教材
人間の感覚には、様々なものがあります。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といったいわゆる「五感」のほか、分類の仕方にもよりますが、揺れ、回転、加速などを感じる前庭感覚、筋肉への力の入り具合や、関節の曲がり具合などを感じる固有感覚といったものです。
今回取り上げるのは触覚です。触覚とひとことで言ってもさらに細かく分かれていきます。ごく狭い意味での触覚のほか、圧覚、冷覚、痛覚、振動覚などがあり、子どもによってはそれぞれに感じやすさ、感じにくさが違っていることがあります。冷たさは感じやすいけれど、人に触られるのは感じにくい等です。
今回は、それらの中でもごく狭い意味での触覚、すなわち「触り分ける」力を育てるためのものです。触覚は全身の皮膚にはりめぐらされていますが、自分の身体と、外の世界との境界になる、非常に重要な感覚です。これが過敏であったり、逆に感じにくかったりすると、自分の身体がどこまでで、どこからが外の世界なのかがわかりにくくなるということで、身体の動かしにくさといったことにも影響することがあります。前庭感覚や固有感覚とともに、身体の動きを見ていくうえで、真っ先に整えていきたい感覚となります。
触覚へのアプローチはさまざまなものがありますが(手遊び、マッサージ、お腹に指で書かれた字を当てる、小麦粉粘土を扱う等)、これは見えなくなっている箱の中から、特定の形のものを取り出すものです。見えないので、触覚に頼った活動になります。
市販の教材でなくとも、身の回りのもので同じ目的の活動を設定することもできます。袋の中に入れた「ぬいぐるみ」「せんたくばさみ」「ペン」などを、探り出すといった活動です。身近な物で工夫しながら、それぞれの子どもの課題に応じた活動を行っていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
174数字を「書く」ことを補う教材
算数科の学習にあたり、「数字を書く」ということについても、子どもがつまずきやすいところです。数字を書くだけで精いっぱいになり、考えることに手がついてきにくい、という場合です。文字や数字の読み上げ機能がついた機器、アプリを使う(そして教員が代筆する)という方法もありますが、紙の上で、試行錯誤しながら自分で書く、操作するということも重要な学習なのかと思われます。
そこで、前回と同様に教科書やプリントを固定したうえで、数字を書いた磁石を移動させていきます。この方法では取り扱う数の桁が増えたり、筆算の過程を行ったりすると操作が難しくなりますが、10までの数、2桁くらいまでの数の扱いであれば、効果的な支援になるでしょう。一人一人の子どもの様子はもちろん、活動の目的、内容により、適切な支援も変わってきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
173「その子ども」に合った数図の扱い
「数図」というものがあります。算数の授業の中で「数を一目でわかる」ようにしたもので、左上から「1、2…」となり、「5で折り返す」のが基本です。数字(123)数詞(いち、に、さん)とともに、数量を表すものとして算数科の学習の、基本中の基本の内容となります。
数図の学習の際には、表記された数量を読み取るだけでなく、「数字を見て数量を書き込む」「数詞を聞いて数量を書き込む」といったことも行われます。しかしながら、身体の動かし方が苦手な子どもにとっては「書く」ことが困難で、なかなか学習が進みにくいということがあります。シールを貼る、スタンプを押すということでも同様の学習に取り組むことが可能かと思われますが、ここでは磁石と、立体の枠(百円均一の店で売っている、卵ホルダーの中身)を使う方法を紹介します。
ここでは、「157プリントの固定用枠」を使用。ブラックボードパネルが底に敷いてあるため、磁石を扱うことができます。なお、教科書も冊子形式では扱いにくいため、各ページを切り離してラミネイト加工したうえで固定しています。書見台を使う方法もありますが、十分には本が開きにくいし、その上で磁石を操作したり、書き込んだりするのが難しいためです。
子どもは磁石を操作し、数図と同じ内容の操作を行っていきます。プリントに書きこむのであれば、子どもが操作した通りに教員が代わりに書き込みます。書くか、補助具を使うか。一人一人の子どもに検討していきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
172「その子ども」に合った数ブロック
いわゆる「算数セット」には「数ブロック」が入っていることがあります。黄色と白で、磁石が内蔵されている、おなじみの教材です。小学校の低学年で用いられることが多いですが、身体の動かし方が苦手な子どもにとっては扱いにくさがみられることもあります。特に不随意運動が入りやすい子どもにとっては、1個1個の数ブロックが小さすぎることと、磁石の磁力の弱さがネックになりやすいようです。
そこで、百円均一のお店で売っている木片(30ミリ×30ミリ×15ミリ)にの上下にそれぞれ直径20ミリ深さ5ミリの穴を開け、磁石をボンドで固定したうえで黄色と白の紙を貼り、梱包用テープで巻きあげたものが上記の教材になります。適度な大きさと重さ、磁力があり、ホワイト(ブラック)ボードの上で使うことで、不随意運動が入りやすい子どもにとっては扱いやすい教材となります。
一方、重いものを持ち上げにくい、力が入りにくい子どもにとっては、従来通りの数ブロックの方が扱いやすいでしょう。学びやすい教材/学びにくい教材は子どもそれぞれによって異なり、それぞれの子どもに合わせた工夫を行っていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
171「とまと」と「まとと」
「一文字ずつを読み上げる」ことができても、「単語として意味を取る」ことについては難しい子どもがいます。また、本HPで紹介している「こしとくひらがなアプリ」などを駆使して一文字ずつ打つことはできても、単語を思い浮かべ、それを打つことが難しい(多くは「きつね」が「ねつき」などと逆転する)子どもがいます。それらのつまずきの背景要因は子どもによりさまざまですが、「音を心の中で操作する力」すなわち「しりとり」や「〇のつく言葉の列挙」「単語の逆唱」などの際に用いられる、「音韻意識(日本語の一音ずつを意識し、操作する力)」につまずきがあるという場合が多いようです。
様々な支援が考えられますが、今回紹介するのは、その中でも「勝手読み」が多い場合。すなわち「ねずみ」と書いてあるのに、「ねず」まで行ったら「ねずこ!」と読んだり、極端な場合、「ねずみ」の「ね」だけ、あるいは「きつね」の「ね」だけを見て「ねずこ!」と読み取ってしまう子への支援です。
ここでは、「とまと」カードを5枚、「とまま」「まとと」など「トマトではない」カードを5枚、それぞれ用意してあります。それぞれの単語カードの裏には「〇」なり「×」なり、子ども自身が「『とまと』であったのか否か」を確認できるようにしてあります。教員と一緒に単語を読み上げながら、これが『「とまと」なのか?』とその正誤を確認していきます。
同じようなテーマで、プリント化することもできます。絵と、どこか一か所だけ間違っている単語を提示し、「どこが間違っているのか」「ほんとうは何なのか」ということを問い、正確に読み上げること、一文字ずつを意識することを促していきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
170さわってわかるひらがな
文字の学習は、これまでも様々な機会に紹介してきました。「目で見分ける」学習と、「音を聞き取る」学習とが合わさって、「文字を読む」ことができるようになっていきます。しかしながら身体の動かし方が苦手な子どもの中には目を使うことが苦手な子どもも多く、「あ」「め」「ぬ」、「り」「い」「こ」、「れ」「ね」「わ」といった各文字の見分けがつきにくい、といったつまずきが見られることがあります。
これらのつまずきに対する支援として、「目で見る」だけでなく、文字の形、とりわけ「す」「ぬ」「ね」のように複雑に線が交差する文字について、それらの線を「触って」確認できるようにする、といったことが考えられます。具体的には線の交差が実感できるように「モールで文字を作る」「粘土で線を作って文字を作る」といったことです。今回紹介するのは市販の教材で、文字の線が単に印刷されているだけでなく、ざらついていて、線を指で辿る中で触覚的にも感覚が入ってくるようになっているものです。
学習は見るだけ、聞くだけではなかなか進んでいきません。実際に身体を動かすこと、複数の感覚を活用しながら学んでいくことが重要なのですが、身体の動かし方につまずきがあると、そこが難しくなりがちです。教材教具を工夫する中で、それぞれの子どもの学びやすさを追求していきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
169穴を見分けて入れる
例えば、「ボールを入れる」課題が達成されたとして、「目や手を育てる」ための次の課題としてはどのようなものが考えられるでしょうか。例えば電池のような「円柱を入れる」課題。丸の型はめ。磁石のついたカードをホワイトボードに貼る課題。球と輪を見分ける課題、といったものが考えられます。
今回紹介するのは、「ボールを入れる」課題の一歩先の1つ、「穴を見分けて入れる」課題になります。ここでは、複数ある容器の1つだけに穴が開いていて、そこを見分けて入れていきます。最初は2つの選択肢から始めていき、3つ、4つと選択肢を増やしていきます。子どもは最初は手探りで、「あれ?入らないな」と試行錯誤するかもしれませんが、次第に目を使って、試行錯誤することなく入れるようになっていきます。
なお、選択肢が3つある場合、子どもが一番捉えにくい位置はどこでしょうか? 非利き手側? と考えたくなるところですが、ほとんどの場合は「真ん中」です。これは3つの選択肢だと大人からは実感しにくいところです。しかし5、7、9、11と選択肢を増やすにつれて、「端の方が捉えやすいこと」「『真ん中』というのがことのほかわかりにくいこと」を実感できると思います。これはカードとか、掲示物とか、さまざまなものを子どもに見せる時も同じで、ちょっとした提示の仕方の違いで、子どものわかる/わからないが分かれていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
168袋から出して入れる
前回、ボウリングを通して「手段をつなげていく」ということの視点について紹介しました。同じように、「目的がわかりやすい活動」の中で手段をつなげる、見通しを持って活動するための学習として、「袋から出して入れる」というものもあります。
「ボールを取って」→「入れる」だけならば、活動のつながりは1つです。活動に必要な見通しはシンプルなものになります。「ボタンを押して」→「電気を消す」、「蛇口をひねって」→「水を出す」そして前回紹介した「ボールを転がして」→「ピンを倒す」なども、「見通し」という観点からすると、ほぼ同様の難易度の活動になります。これらはいずれも「ボタンを押すこと」「蛇口をひねること」「ボールを転がすこと」そのものが活動の目的なのではなく、「電気を消す」「水を出す」「ピンを倒す」といった『目的のための手段』になっています。
では、「袋から出して」「ボールを取って」→「入れる」となると、どうでしょうか。これは活動が2つつながり、連鎖しています。「ボールを取って」→「入れる」よりも活動のつながりが多いわけで、より見通しをもつことが難しい活動となります。さらに活動の難易度を上げていくと、袋を紐でしばったうえで「紐をほどいて」「袋から出して」「ボールを取って」→「入れる」というように3つ活動をつなげるといったことが考えられます。
今回、子どもの見通しということ、活動をつなげていくという視点を紹介しました。実際の生活では、様々な複雑な見通しが求められます。自動販売機を見つけたとき、「のどの渇きを潤すために」「財布を探す」といった場面があるかと思います。しかし、「のどの渇きを潤す」という目的と、「財布を見つける」という手段の間とには、どれだけの活動のつながりがあるでしょうか? 大人からすると当然のつながりなのですが、子どもの成長を考えたとき、ごくシンプルな見通しから、丁寧に活動をつなげ、手段と目的の距離を離していく学習が必要になってきます。
(本校特別支援教育コーデイネーター)
167手段をつなげる学習(ボウリング)
室内で手軽に行える活動として、ボウリングがあります。ボールを転がす→ピンを倒す、という活動ですが、シンプルなようでいて、奥の深い活動になります。
いきなりですが、「ボールを転がす」ということは、活動の目的ではありません。活動の目的はあくまでも「ピンを倒す」ことです。当たり前のようですが、「『ピンを倒す』ために『ボールを転がす』」ということは、子どもにしてみると「活動の手段と目的を分離させる」ということになります。これは実は、かなり難しいことです。
他に「手段と目的が分離している」状況を考えてみると、例えば「水を出すために蛇口をひねる」「食べるためにスプーンを持つ」といった場面があります。これらも、「蛇口をひねる」ことが目的ではありませんし、「スプーンを持つ」こと自体が目的ではありません。あくまでも水を出すこと、食べることが目的になります。さらに手段と目的が分離していけば、「ごはんを食べるために、手を綺麗にするために、水を出すために、蛇口をひねる」といったことになるでしょう。これらの手段をいくつつなげていけるかということが、いわゆる「見通しを持って活動できる」という力になってきます。
ボウリングに話を戻しますと、目的はピンを倒すことです。ですので、一番簡単な取り組み方を考えると、「手で直接ピンを倒す」ということが考えられます。これだと、活動の手段と目的とがイコールですので、子どもにとってもわかりやすい、見通しが持ちやすい活動になります。続いて、「ボールを転がしてピンを倒す」というのがあります。ここで見通しが持ちにくい子どもの場合、ボールを触ったり回したりすること自体が目的になりがちで、なかなか「倒すために転がす」というところに行きにくくなります。
逆に言うと、ボウリングのように「ピンが倒れる」という目的がわかりやすい活動の中で、活動に見通しを持つこと、手段と目的を分離していくこと、複数の手段をつなげていくことの練習をしていきます。そこで身につけた力を発揮して、「手を洗うために、水を出すために、蛇口をひねる」等の、生活の中での、見通しを持った活動が広がっていくことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
166位置把握・口頭
13、16、96、106、162回で紹介してきた位置把握課題ですが、これらは基本的に「目で空間を捉えて」「記憶し」「手で操作して空間を再現する」活動でした。板書を見て同じように書く、といったことにつながっていきます。「見比べる」力を育てる活動です。
この活動に十分取り組むことで可能になってくるのが、今回紹介する、「口頭での位置把握」になります。使い教材としてはこれまでと同じなのですが、教員側の見本を隠したうえで、「真ん中はアンパンマン」「アンパンマンの右がドキンちゃん」など、口頭で伝えていき、耳で聞いた情報から自分で空間を組み立てていくという活動になります。
これは「目で見て」行うよりもかなり難易度が高い活動になります。なお、子どもが取り組んだものが合っているかどうかの答え合わせは、教員側が隠し持っていた見本を「見る」ことで行います。「見て分かる」が十分に身についてきたところで、見えないものを聞いただけでイメージする、「聞いて分かる」の学習に進んでいくわけです。
(本校特別支援教育コーディネーター)