2020年5月の記事一覧
57 0から5までのサイコロ
今回紹介するのは、「0から5までのサイコロ」です。およそ『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』として使うことを想定しています。
サイコロというのはすごろくに使うなど数の学習の時に活躍することの多い教材なのですが、一般的な1から6のサイコロというのは扱いにくいことがあります。数量の理解の基本は「5のまとまり」「10のまとまり」の理解になるところ、どうしても「6」の扱いに困るのです。本来であれば、「6」という数量は「5と1」として教えたいところです。
そこで、サイコロの6面のうち、「6」にあたるところを「0」にし、「0から5までのサイコロ」にしてしまいます。そうすると出てくる数字が5までとなり、子どもが「5のまとまり」を意識しやすくなってきます。「0」の概念の導入ともなります。
市販品としての「0から5までのサイコロ」はなかなか手に入りにくいようです。一部の算数セットに含まれているほか、立方体の木に自分で書く、無地のサイコロ(市販されています)に書き込む、といった入手法があります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
56 吹きゴマ
今回紹介するのは、呼気を調整する力を学ぶための吹きゴマとなります。一定時間、口をすぼめてそっと息を吹き続ける呼気のコントロールというのは運動面からみてもかなり難しい力で、およそ『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』として使うことを想定しています。
この吹きゴマは市販品になります。色とりどりなので、色の弁別に用いたり、教員が吹いたのを注視するために用いたりすることもあります。
「息を吐く」「息を吹く」というのは呼吸器系を整えたり、円滑に口周りの筋肉を使ったりするうえで、重要な学習になります。他にも「ピンポン玉を吹いて動かす」「ラッパ」「シャボン玉」「風船を膨らませる」「お祭りでよく見る『吹き戻し』」などいろいろなものがあるのですが、この吹きゴマは少ない呼気でもコマがくるくると回るので、子どもにとっても意欲的に取り組みやすい教材となります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
55 文字を読み上げるためのカード その3
前回まで紹介してきましたように、『あ』を「あり」と読んでしまうのは適当ではありません。一方で「よくある50音表」のように絵と一緒にイメージで文字をおぼえていく、ということの効果も重要です。そのため、ここでは『き』は「き(木)」の絵、『め』は「め(目)」の絵、『て』は「て(手)」の絵といったように、一音ずつで成立する言葉の絵を選んでいきます。
また、絵を選ぶ際には、「身振り化できる絵である」ということも重要です。子どもたちの中には、文字を読むことができても、発音することが難しい子どもがいます。そんなとき、読めているかどうかを身振り化してもらうことで判断することができます。また、絵と同様に、身振りをおぼえることで、発音を思い出すヒントにもなります。
こうした条件を踏まえて絵を選んでいくと、「木」「目」「手」「歯」「蚊」「毛」「背」「血」「火」「矢」「湯」「輪」あたりが出てきます。しかし、足りません。「絵」「田」「津」「戸」「藻」「炉」などは言葉として存在しますが、身振り化しにくかったり、そもそも子どもが言葉を知らなかったりします。
そこで、「あ(驚く)」「い(口を横に引く)」「う(お腹を押さえる)」「え(小首をかしげる)」「お(納得する)」といったように、擬音なども含め、ジェスチャーありきで絵を選んでいきます。こうやって完成したのが今回の文字カードです。
(本校特別支援教育コーディネーター)
54 文字を読み上げるためのカード その2
前回の続きとなります。片面が文字、片面が絵というカードはよく市販されていますし、50音表もさまざまなものが存在します。その中であえてカードを手作りしているのは、「操作をしやすくする」というためだけではありません。
左の写真が、「よくある」50音表です。これで学んでいくとどういうことが起こるかというと、『あ』を見て「あひる」と読んだり、『い』を見て「いえ」と読んだりする子どもが育ちがちです。「自分の名前の頭文字=自分の名前」と思っている子どももいることでしょう。すなわち、「あ」という一つの音に『あ』という一つの文字が対応するという、ひらがなの最大のメリットがわかりにくくなってしまうということになります。
「一つの音に一つの文字」というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、漢字などは「犬(いぬ)」のように「複数の音に一つの文字」ですし、ローマ字などは「TA(た)」のように「一つの音に複数の文字」となります。意外かもしれませんが、ひらがなというのは世界的に見ても学びやすい文字だと言われています。
読字障害(ディスレクシア)というものがあります。これは使用する文字によって大きく違っていて、イタリア語や日本語では起こりにくく、英語では頻発する、と言われています。これには明確な理由があります。アルファベット全般がそうですが、『A』という文字は、実際には「ア」と発音することが多いにも関わらず、「エー」と読んでいます。ひらがなの場合、『あ』は「あ」でしかありません。ここで混乱が生じるのが1つ目の理由。英語が『TEA』のように複数の文字で1つの音を表しているのが2つ目の理由。そして、英語ならではの理由としてあるのが、『A』という文字を、非常にたくさんの発音で読む、ということがあります。「C『A』T」「POT『A』TO」「『A』LWAYS」。同じ『A』なのに、読み方が全く違います。それに対し、『あ』は「あ」でしかありません。これがひらがなの学びやすさとなります。
話は戻りますが、せっかくのそういったひらがなの特徴があるので、一音一文字の原則を十分に身につけ、『あ』を「あり」と読むことがないようにしていきたいところです。
※特殊音節、漢字といったものは例外となります。『きゃ』などは1つの音を複数の文字で表しますし、「おと『う』さん」「せんせ『い』」などは発音と表記が一致していません。「O(お)」という音も、時と場合によって『お』や『を』と書き分けたりします。ひらがなの表記も、この辺りがつまずきやすいところです。漢字も、音読み、訓読みというように時と場合によって読み方が異なるため、つまずく子が出てきます。丁寧に教えていく必要があります。
※なお、イタリア語は英語よりも文字と発音の規則性が明確なため、ディスレクシアが起きにくくなります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
53 文字を読み上げるためのカード その1
今回紹介するのは、文字を読み上げるようになるためのカードです。およそ『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』として使うことを想定しています。
繰り返しカードを読み上げれば、文字を読み上げられるようになるわけではありません。そもそも、「文字が読める」ことと「文字の意味が分かる」ことは大きく違います。例えば、英語で「I can’t get no satisfaction」という文があったとして、これを「読み上げる」ことと、「意味が分かる」ことには大きな違いがあるはずです。ひらがなも同じで、子どもが「り」「ん」「ご」と一文字ずつ読み上げることができたとしても、そのとき子どもの頭の中に『りんご』のイメージが浮かんでいるとは限りません。
ただ、教員がそのときに「そうだね、りんごだね」などと言ってしまっていて、子ども自身が「読んでわかっている」のではなく、実際には「聞いて分かっている」というときもあります。今回は「読んでわかる」のはひとまず置いておいて、「読み上げる」までのステップとなります。
カードそのものは㉖の「立体トランプ」と同じ作り方です。厚みをつけ、磁石を埋め込んでいます。操作がしやすくなる、重みがつく、カードがばらけないなど、様々なメリットがあります。
この文字カードは「あ」から「を」までの46音、そして濁音の中でも使用頻度の高い「が」「だ」の全48枚で構成されています。片面が文字、そして裏面が絵になっています。右の写真は一覧になっている50音表です。
(本校特別支援教育コーディネーター)
52 具体物からカード、ことば、文字へ
今回紹介するのは、具体物からカード、ことば、文字へと至るステップです。すべての発達のステージにかかってきます。例えば「くだもの」「どうぶつ」「のりもの」の種類の弁別を行う際、ミニチュアなどの具体物を用いて弁別する場合と、単語カードを用いて弁別する場合とでは、難易度は大きく異なります。具体物が簡単で、単語は難しいです。
これは普段の日常生活でも言えて、例えば「トイレに行く」ということを子どもに分かってほしい場合、どうすればいいでしょうか? 一番わかりやすく伝えるのであれば、紙オムツを手渡したり、いつも使っているトイレ用のバッグを手渡したりすることでしょう。次に、そのトイレバックや、便器を写真に撮って作ったカードを手渡すことが効果的でしょう。その次くらいに、『トイレ』のマカトンサインや、トイレを示すシンボルのカードを見せることになるでしょう。
「トイレに行くよ」といった言葉かけですとか、『トイレ』という単語カードを見せるとかは、さらにそのあとの、かなり難しい働きかけとなります。大切なのは、これらの伝え方のどの段階で子どもが理解しているのかを把握しておくことになります。1つの段階でわかるようになったら、その次の段階を目指していきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
51 スライドブロック
今回紹介するのは、「スライドブロック」です。目的としては「⑨立体迷路」とほぼ同じなのですが、難易度が調整できるようにしてあること、高さがあるのでペグが「落ちた」ということに気づきやすいという特長があります。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
このスライドブロック、百円均一の店で売っているスチロールのブロックを掘りこみ、缶を差し込むことで作られています。また、フローリング用の素材を表面に貼ることで、ペグがすべりやすいようにしてあります。
このスライドブロックは、最初は「少しだけ動かしたらペグが落ちる」というところから始めていきます(点)。そしてすこしずつ距離を取り、一定の距離をすべらせてから落とすようにしていきます(線)。そのうえで、折り返しがあるなど、方向を切り替えながら落としていきます(面)。
このスライドブロックでは表現できませんが、最終的には高さも伴って空間的に操作すること、さらにはタイミングを合わせて時間的に操作すること…といったように、どんどんと巧緻性を増していきます。これは「点→線→面→空間→時間」という空間を捉える力の発達でもありますし、操作している時間が「瞬間的」であったものが、どんどんと「持続的」になっていくという時間を捉える力の発達の過程でもあります。
ツリーチャイムのような「さわることによって変化が起こる」教材なども、子どもが瞬間的にさわっていたのから持続的にさわるようになり、音楽に合わせてさわるようになり…と次第に持続的に、複雑に触れるようになっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊿教材教具の意味
この「本校の教材教具」も50回目となりました。今回は、そもそも教材教具とは何か、何のために存在するのか、ということを再確認していきます。
淑徳大学の池畑美恵子先生は、教材の果たす役割として以下の4点を指摘されています。
一つ目は、『場面をわかりやすくする』ということです。入れる、はめる、分けるなど子どもにとって「何をすればいい」のかが明確となり、子どもが主体的に学習に取り組むことができます。
二つ目は、『子どものつまずきの状況をとらえやすい』ということです。それぞれの教材について、単に「できた/できない」と捉えるのではなく、「どのようにやっているのか」「どうしてできないのか」といったことを掘り下げ、一人一人の課題をみつけていきます。同じ教材であっても、やり方によって大きく難易度が変わるというのは、㊺~㊻でも紹介してきたところです。
三つ目は、『手を使う、目を使う活動を引き出しやすい』ということです。身体の動かし方につまずきのある本校の子どもたちにとっては特に大きいところです。教材をさわって、見て、手ごたえ等を確かめ、操作することが、自分の外の世界とつながっていく非常に重要なきっかけとなります。
四つ目が、『教材を媒介とした三項関係を作りやすい』ということです。「三項関係」というと難しい言葉ですが、子どもにとって「できた!」ということが実感でき、その気持ちを教員と共有しやすいということです。
教員が説明するのを聞いたり、映像を見たりするだけでは、なかなか子どもの学習は進んでいきません。主体的に学ぶこと、対話的に学ぶこと、深く学ぶこと、そのいずれにおいても教材教具は大きな役割を果たしていきます。
参考文献:池畑美恵子「子どもに合わせて教材も変わる」学研『実践障害児教育』2012年4月号
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊾大小を並べる教材
これまで、再認(選ぶこと)と再生(言うこと)の違いですとか、弁別のステップですとかを紹介してきました。今回紹介するのは、「大小」「長短」「軽重」といった、比較概念を子どもに教えていく際のステップとなります。このあたりはおよそ、『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
比較概念とは何でしょうか? 例えば、子どもは「象は大きい」「ありは小さい」と絶対的に理解しています。しかし、象は地球よりも「小さい」ですし、ありは細菌よりも「大きい」です。あくまで2つのものを比較して成立するのが比較概念です。この辺、「色」「形」「陸海空」「季節」といった絶対的な概念とは異なるところになります。ここでは「大小」を取り上げますが、「長短」「高低」「軽重」「多少」「暑さ」「強さ」「可愛さ」なども同じような比較概念です。
最初は、大小を分けることを学びます。まずは、大きいことと小さいことの区別がつかなければ始まりません。そして、「どっちが大きい(小さい)」という学習に進みます。右側の画像の真ん中の〇は、一番小さい〇からすると「大きい」ですが、一番大きい〇からすると「小さい」です。このように、物事を比較して捉えることを学んでいきます。
ここで、「もっと大きい(小さい)ものを知っている?」「他に大きい(小さい)ものは?」といった対話を重ねていくことも、非常に重要となります。深い学びへとつなげていきます。
いくつもの物を比較できて、はじめて可能になるのが最初の写真の、「ピンクタワー」を横に並べる(順序付ける)学習になります。こうやって大小や長短といったものを順序付けることを「大小の系列化」「長短の系列化」等といい、様々な教材があります。枠を用意してあげたり、ミニチュアを用意して「のぼれるように階段をつくるよ」といった言葉かけをしてあげたりすると、順序付けるということにイメージを持ちやすくなるようです。
大小の学習は、「分ける」「比較する」「順序付ける」と進みます。大小から高低、長短等を経て、「多少」を順序付ける力があって、数の学習に進むことができるようになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
㊽積み木倒し
今回紹介するのは、様々なところで手に入る積み木です。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。
前回の㊼では、「触れたものに気づく」ということの取り組みを紹介しました。その次のステップとして、自分から触ろうとすること、すなわち「自分がしたこと」と「その結果」の関係性がわかる『因果関係の理解』があります。
触ろうとするためには、「おや、なんだろう?」という気づきが必要となります。その力を育てやすいのが、わずかな手の動きで大きな結果が得られる(ガラガラと大きな音と振動がする)積み木倒しです。子どもたちは自分のやったこととその結果を経験する中で、「~をしたらどうなる」ということを学んでいきます。そして、どんどんと手を使って自分の外の世界に働きかけていくことになります。本校の子どもたちはその際に身体が動かしにくいということがあるのですが、そこを様々な装具や、身体の取り組みを通して補っていきます。
積み木倒しと一言で言っても、「どこに置くのか」ということで子どもにとっての難易度は変わってきます。手前に置くか、奥に置くか。子どもによって違うのですが、手元に引き付ける手の動きがやりやすくて、奥に手を差し伸べる方が難しいことが多いようです。
㊼は基本的に「さわられる」ことの学習でしたが、この㊽では、自分から「さわる」ことの学習となります。この学習のためには、他にも楽器だとか、様々なスイッチ教材などがあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)