2020年6月の記事一覧
79 触知覚を育てる教材
今回は触知覚を育てる教材を紹介していきます。触「知」覚と言っているからには一般的な意味での触覚とは少し違って、点字のように「触ってわかる」「触り分ける」ことを目的としています。およそ『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』として使うことを想定しています。
これまでに紹介してきた教材の活用ともいえるのですが、例えば⑰の球と輪の弁別、㉙の市販の型はめなどを、ペグを袋や箱に入れ、「視覚に頼らず」触り分けて取り出していきます。球と輪の違いを触り分けたり、〇△□の違いを触り分けたり、各キャラクターのフィギュアを触り分けたり…。触り分ける力を高めていく中で、散髪や爪切りが苦手、服のタグが嫌といった触覚の過敏が調整できるようになったり、見て分かる力が高まっていったりすることがあります。
同じく触知覚を高めるためのものとして、「お腹や背中、手に文字や数字を書いてもらい、それを当てる」といった学習もあります。また、数量を触覚に頼ってあてる、といった学習もあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
78 磁石の両極を活用した「種類」の弁別教材 その2
前回の続きとなります。30ミリの面取りドリルを用い、ボール盤でランダムに穴を開けていきます。ここでは8か所に開けています。
もう一枚の板を重ね、先ほど30ミリで開けた穴のところに、今度20ミリの面取りドリルで穴を開けていきます。要は、重ねた板の同じ位置に穴を開けるということです。
20ミリの穴を開けた板と、まっさらな板とを貼り合わせます。そして20ミリの穴に強力磁石を固定していきます。この時、磁石のS極とN極の向きを調整します。
ラミネイトした紙を間に挟んだうえで、30ミリの穴を開けた木が一番上になるように貼り合わせます。最終的に、板は3枚重ねとなります。磁石に百円均一の店の立体シールを貼り付けて完成となります。これで、「違うところに磁石を置こうとしても、反発するので置けない」教材が完成します。76の色のマッチングの教材もそうですが、2択までならこのやり方で表現することができます。子供が間違えたときに、教材そのものが間違えたことを教えてくれます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
77 磁石の両極を活用した「種類」の弁別教材 その1
前回とほぼ同じ作り方の教材です。前回は色のマッチング用でしたが、今回は種類の弁別用のものを作成していきます。『Ⅱ見分ける学習の教材』として想定しています。
材料を購入します。材料として適切なのは、質のほかに、「安価であるもの」「同じものが継続して手に入るもの」になります。特に「同じものが継続して手に入る」というのは重要で、同じ材料を使って教材を作っておくと、「別の目的で作ったこの枠に、この教材が入った」など、予想外の互換性が出ることがあります。
今回購入したのは「MDF板(A3サイズ)」「磁石(8個入り)」「各種シール(今回は虫と食べ物)」あたりです。その他、「ボンド」「ドリルの刃(20mm,30mm)」「電動糸鋸」「ボール盤」「ラミネイトフィルム」「ラミネーター」などを使用します。
最初に、磁石のS極とN極を入れ替えます。磁石はかなり強力なテープで枠に固定されているので外すのが大変なのですが、ゆでるとテープが剥がれます。ただし、ゆですぎると磁石の枠がゆがんでしまうので、加減が必要です。70度程度のお湯で、数分ゆでると外れるようです。製品によっても異なるかと思いますので、ご確認ください。
磁石についていたテープのねばねばをシールはがし等で落とします。そして磁石の表裏を入れ替え、接着剤で再固定します。これで磁石の準備が完成となります。また、A3サイズのMDF板を適切なサイズに切ります。今回はA4で使っていくので、半分にします。
種類の表札を作成します。10センチ四方のMDF板を半分に切って使用しています。印刷した紙をスティックのりで仮止めし、周囲を梱包用テープで巻きます。①の形態構成と同じ作り方です。表札のサイズに、板をくり抜いていきます。その他の教材にも共通するのですが、ドリルで穴を開けたうえでそこに電動糸鋸の刃を通し、くり抜いています。
(本校特別支援教育コーディネーター)
76 磁石の両極を活用した「色」のマッチング教材
百円均一のお店で売っている磁石を、同じ色の枠にはめこんでいく教材です。『Ⅱ見分ける学習の教材』として使うことを想定しています。サイズとしてはA4大で、A3大のMDF板(中密度繊維版)を半分に切って使用しています。
一見すると特に特徴のない教材に見えますが、この教材は実物を触ってみることで「あれ?」と子供が小首をかしげるようにできています。同じ色の枠には磁石が貼りつくけれど、異なる色の枠には絶対に入らないのです。「失敗することのない」教材になっています。そうするために、磁石の中身を一回取り外し、S極とN極を逆転させるということを行っています。次回、作成法を詳しく紹介します。
色の学習の中でこの教材を使うのは、㉔「カラーコーン重ね」の次くらいのステップになります。同じ色を一か所に積み重ねていく「カラーコーン重ね」とこの教材だと、こちらの難易度の方が高いです。ただ、手指の操作といった理由で、こちらの方がやりやすいという子供もいることでしょう。一人一人、違ってきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
75 プリント教材とその活用(ことばの学習のプリント その2)
前回の続きとなります。
これまで紹介してきた様々な学習の総決算的なプリントとなります。「物の名前」「色」「形」「大きさ」「季節」「絵の細部」「陸海空」など、様々な属性に焦点をあてて思考していきます。これも「適切な答えを選んでいるか」ということは特に問題としておらず、「どうしてそう考えたのか」ということを問いかけていきます。教員からすると「正しい」答えを選んでいても、理由を聞いてみると不思議な理由だったり、教員からすると「間違った」答えであっても、子どもなりによく考えた結果だったりすることがあります。
「強さ」「大きさ」など比較概念の場合は、「選ぶプリント」「比較するプリント」と進んでいきます。これらも適切な答えであるかどうかは特に問題とはしていなくて、「どうしてそう考えたのか」「強いものには他にどんなものがあるか」「もっと強いのは何か」といったことをやりとりしていくきっかけにしています。
子どもが「あれ?」と考え込む題材を選ぶことがポイントで、「先生とお母さんはどっちが強い?」「先生とお母さんはどっちがかわいい?」とか、答えがあってないような質問をしていきます。もっともな理由を言う子だとか、「これは答えられない」と答える子どもだとか、様々な答えが返ってきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
74 プリント教材とその活用(ことばの学習のプリント その1)
58において、「文字を読み上げていること」と「書いてあることの意味が分かること」の間には、大きな違いがあることを紹介しました。今回は、様々な「ことばを育てる」プリント教材を紹介します。『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』として用いることを想定しています。
この2枚のプリントは似ていますが、子どもからするとかなり難易度が異なるものになっています。絵を見て単語を選ぶことと、単語を見て絵を選ぶこと。多くの子どもにとっては、前者の「絵を見て単語を選ぶ」ことの方が難しいでしょう。
これは特定の文字を選択するプリントです。「め」と読み上げるためには、「あ」「ぬ」といった形が似通った文字との見分けがついている必要があります。なお、〇を書くことが難しい子どもの場合、あらかじめプリントをホワイトボードにセロテープで貼り付けておいて、磁石を置いていくことで選択できるようにします。
季節に関する言葉なども、プリント化して学習することができます。書くことが難しければ磁石を使います。文字の獲得がまだである子どもは、絵で学習していきます。これらのプリントは「正しい答え」を答えてもらうためのものではありません。教員と子どもとで「これってどういうの?」「見たことある?」「他にはどんなのがある?」「先生はこう思う」といったやりとりを重ね、その子自身がどう考えているのか?ということを深めていきます。
また、プリントを用いるメリットには「その時、その場で子どもが言ったことを教員が書き込んでいける」といったこともあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
73 輪抜き/輪通しの教材
④で紹介した輪抜きの教材ですが、今回は輪抜きに使う棒やペグの工夫を紹介していきます。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。最も簡単に手に入る組み合わせは、百円均一のお店で売っている「キッチンペーパーホルダー」と、輪になっているものなら何でも、というところになるでしょう。今回の棒は、安定感を出すために太さ20ミリ長さ200ミリの木材を、土台に差し込んで作成してあるものです。
輪抜きは、「ここ(輪を持った時点)からここ(輪が抜けるところ)まで」という、終わりに向けて運動を持続させていく学習になります。子どもにとって、「何をすればよいのか」というのが明確になります。また、身体の動かし方が苦手な子にとっては、手首等の使い方の練習にもなってきます。
以下の教材は、手首の使い方、目の使い方を練習するために特に工夫してあるものです。穴が板の中心にあるものから始まり、徐々に持ち手が長くなっていきます。持ち手が長くなるにつれ、手首の動きや、目の使い方を調整する必要が出てきます。
次の教材は、持ち手をL字状にしたものです。これを上手に抜く、あるいは棒に通すといった場合、かなり手首や目の使い方を調整する必要があります。
このように輪抜きの教材といっても、何を用いるのかということにより、だいぶ難易度は変わります。子どもの学習の目的に合わせて選択していくことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
72 押したら鳴る教材
今回は百円均一のお店などで売っている、市販の教材を紹介します。『Ⅰ手や目を使う基礎を整える教材』として使うことを想定しています。子どもの分かる力の発達を考えていくとき、最初に考えられるのが㊼「保冷剤」や63「アリスのティーパーティー」のような教材で、「触ること」「揺れること」「回ること」など何らかの感覚に気づくことです。その中でも、文字や本、絵、動画のような「見る」教材には子どもはなかなか気づきにくいということは繰り返し紹介してきました。
今回紹介するのは、握ったら音が鳴る教材です。「音が鳴ったことに気づく」ことが最初の気づきだとすれば、「握ったから音が鳴る」という気づきは、その次のステップの気づきとなります。これを『因果関係の理解』と言い、㊽「積み木倒し」と同じような目的となります。同じような目的の学習に、押したら扇風機が回るスイッチ、押したら振動するスイッチ、触ったら画面が変化するタブレット端末のアプリなどがあります。
「こうしたらこうなる」という経験を積み重ねる中で子どもの予測する力が育ち、「これはこういうものだろう」ということが見ただけでわかるようになっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
71 さまざまな反射と教材教具(非対称性緊張性頸反射)
緊張性迷路反射、対称性緊張性頸反射に続き、非対称性緊張性頸反射の紹介となります。これは、英語の頭文字をとって「ATNR」と呼ばれることが多いです。「対称性緊張性頸反射」に名前が似ていますが、「非対称性」ですので、「首の(左右の)角度をきっかけに」「緊張が入る」「反射」です。
この反射では
・首が左右に向くと、傾いた方の手足が伸展し、逆側の手足が屈曲
します。
この反射が存在しているのは、母胎の中で手足の筋肉を使う練習をするためだったり、生まれてくるときに産道を通るためだったりするようです。大人になっても「いざ」というときに用いられていて、例えば弓を引く姿勢、野球のピッチャーのフォーム、バレーのアタックをするときのフォーム、フェンシングのフォームなどで自然と利用されています。
この反射が学習や生活に及ぼす影響は大きく、「見た方向に手が伸び」ます。良いことのように聞こえますが、物に手が届いたとしても、今度はそれを自分の方に持ってくることが困難になります。取りたいものがあって、取ろうとして顔を向ければ向けるだけ、手が遠ざかってしまうということになります。
また、全身が非対称の姿勢になっていくので、脊柱の変形を誘発しやすいということも起きます。どうやって抑制していくか?ということになると、⑥で紹介した丸の型はめのようにお腹の前に手を持ってくるような学習、66で紹介したような身体の正中線を越えて手を動かしてボールを筒に入れるような学習が効果的なのではないでしょうか。これらの動きを子どもが自分からやる、というのはなかなか難しく、教材を駆使して活動の目的を明確にすることになります。
以上、68から数回にかけて子どもの反射のことを紹介してきました。子どもの姿勢、特に頸の角度が身体の動きに与える影響は大きいものです。それに対して様々なアプローチの方法がありますが、教材教具を用いることでもアプローチしていくことができます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
70 さまざまな反射と教材教具(対称性緊張性頸反射)
前回まで紹介してきた「緊張性迷路反射」と一緒に起こることの多い反射で、「首の(前後の)角度をきっかけに」「緊張が入る」「反射」です。似たような名前の反射に「『非』対称性緊張性頸反射」がありますが、これは首の左右の角度によって緊張が入ります。
この反射も人類が進化してくる過程で獲得してきた反射で、
・首が前方に傾くと上肢が屈曲して下肢が伸展し
・首が後方に傾くと上肢が伸展して下肢が屈曲します
仰向けになると首がのけぞることが多いし、うつ伏せになると首が前方に傾くことが多いので「緊張性迷路反射」と連動しやすいのですが、あくまでも首の角度に依存しているので、枕を入れるなどして首の角度を変えることで調整することができます。
この反射が強く出ていると、教材に手を伸ばそうとしたときに、どうしても見続けることができず、首を後方に傾けながら手を伸ばさないといけないという状況になります。やはり、66~67で紹介したような、床のボールを拾うような活動が効果的かもしれません。一方、この反射は首を前後に動かすことで手足を交互に「曲げる」「伸ばす」ことができるので、これを利用して室内を移動する子もいます。「バニーホッピング」です。
子どもには様々な反射があり、学習や生活に必要な身体の動きに影響しています。それぞれの反射が良い、悪いというのではなく、子どもたち一人一人の生活に合わせて利用するときは利用し、強く出すぎて子どもがそれに困っているときは調整していく、ということになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)