2020年9月の記事一覧
92 一対一対応(数の概念の基礎) その2
前回の続きになります。羊の集団を比べることに成功した人類ですが、「遠くにいて直接比べることのできない羊の集団を比べるには?」だとか、「隣の山と自分の山とではどっちの木が多いのか?」といった、次のステップの課題に直面することになっていきました。
離れたところにある集団同士、あるいは動かせないもの同士をどうやって比べるのか? 放牧していた羊が減ったかどうかをどうやって調べるのか?
人類というのはすごいもので、木であれば「1つの山の木にロープを巻き」「そのロープを隣の山に持って行って余るかどうかを確かめる」ということを発明するわけです。おそらくは羊一匹に石一つを対応させる、といったことから始まったのでしょう。
そしてやがて人類は「イチ、ニ、サン、シ、ゴ」という音の順番に数量を対応させれば便利!ということに気づき(数詞の発明)、さらにはその数詞を記号にして粘土板に刻めばもっと便利!(数字の発明)ということに気づくわけです。
子供の学習もまた、具体物を直接比較するということの学習から、「具体物をドットなどに置き換えて比較する」「具体物を数詞(イチ、ニ、サン)に置き換えて比較する」「具体物を数字(123)に置き換えて比較する」というように進んでいきます。
算数の勉強と言うと「5+2=7」のように数字の操作という印象があるかもしれません。しかしそこにたどり着くためには、具体物を操作することからの、「抽象的な思考のステップ」を丁寧に踏んでいく必要があります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
91 一対一対応(数の概念の基礎) その1
今回は、「一対一対応」について説明していきます。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
「一対一対応」というと、「お皿の上に1つずつ物を置いていく」活動だとイメージされやすいようです。「一対二対応」だと、お皿の上に2個ずつ置いていくことになります。これらの学習自体もたしかに大切なのですが、数の前段階として考えると、これだけでは必ずしも十分とは言い切れないようです。
そもそも、一対一対応というのは何のために行うのでしょうか? その成り立ちを考えると「人類が数の概念を獲得する前」までさかのぼります。一対一対応を最初に発明した人の名前は残っていませんが、遥か昔に、おそらくはユーフラテス川のほとりあたりで、羊や山羊を飼っている人がいたのでしょう。そして、隣で羊を飼っている人と「どっちの羊の方が多い?」ということになったのでしょう。本当のところはわかりません。
それで、大昔の人はどうしたのか? なにしろ、数の概念はありません。「イチ、ニ、サン」という数詞は発明されていませんし、「1、2、3」という数字も発明されていません。
こういう状況です。
おそらくはこうやって一匹ずつ、羊を対応させて「余った方が多い」ということを確認したのでしょう。
つまり、一対一対応というのは「多い/少ない」ということを確かめる方法だということです。左の写真では、積み木の方が余るから、積み木の方が多いことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
90 絵の不合理、文の不合理
今回紹介するのは、物事を説明する力を高めていくための教材です。『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』となります。昨今は「主体的・対話的で深い学び」が問われていますが、そこにおいて重要なのは、「どうしてそう思うの?」「つまりどういうこと?」「他にはどういうことがある?」といった発問になってくるのでしょう。教員が説明するだけ、動画を視聴するだけでは、なかなか理解は進んでいきません。教員とのやり取りの中で、子供自身が言葉で物事をまとめていきます。
とはいえ、子供は最初から上手に物事を説明できるわけではありません。そこで、このように「ここが違う!」など説明しやすい教材を用意し、スモールステップで学習を進めていきます。
これらの教材は「間違っているもの」「正しいもの」それぞれに文と絵がセットになっていて、『正しいものを選ぶ』『見るなり、聞くなりして正しいかどうかを答える』『間違っているのであれば、何が間違っているのかを説明する』といった学習を行っていきます。
学習のステップとしては、
A絵を見て、正誤を判断する
B教員が言ったのを耳で聞いて、正誤を判断する
C文を読んで意味を取り、正誤を判断する
という順で難しくなっていきます。文から意味を取るのが難しいようであれば言葉を添え、言葉で分かるのが難しいようであれば絵を見せていきます。どこまでも子供の力に合わせていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
89 大型ブロック
今回紹介するのは、本校でも活用できますが、地域の特別支援学級や知的障害の特別支援学校で身体面の支援として紹介することの多い「大型ブロック」です。本校の体育倉庫にあるこのブロック。子供の腰くらいの高さとなり、「はいあがる」「よじのぼる」ための、適度な高さとなります。子供はそり返る力、背中側の力が入りやすくても、お腹側の筋肉に力が入りにくい(大人もそうですが…)というのはこれまでもお伝えしてきたところで、高い所に這い上がる中で、腹筋を駆使していきます。
また、かなりの重さのあるブロックなので、「押す」という学習にも使えます。子供はなかなか「力を入れる」ということ自体がわかりにくいことがありますが、廊下の端など「どこかまで押していく」といった目的が明確な活動の中で、全身に力を入れるということをおぼえ、体幹を整えていきます。また、ロープをひっかけて引っ張っていくということも行うのですが、「引っ張る」ほうが「押す」よりも難易度が高いようです。
こういったマットが手近にない場合、作成するということもできます。発泡スチロールのコンクリート調ブロック(百円均一の二百円商品)を8×6の48個ほど組み合わせると、ほぼ同じ大きさになります。各層の間に板を挟んで強度と重みを増しているほか、梱包用のテープで周囲を補強しています。
(本校特別支援教育コーディネーター)