2020年11月の記事一覧
101 二語文の総合と分析の課題 その2(人物と動作)
同じ二語文であっても、「色と形」という組み合わせは、子供にとって比較的気づきやすい組み合わせになります。今回は、それよりももう少しだけ難しい、「人物と動作」の組み合わせの二語文の教材を紹介していきます。『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』として想定しています。
教材の作り方としては99と同様で、板目表紙を素材としています。上の方の絵は顔の部分が切り抜かれており、下の絵が見えるようになっています。上の絵、下の絵を交換することで「人物と動作」の組み合わせの絵を作っていきます。
使い方も前回同様です。「男の子が手を洗う」を作るといった「総合」の学習。「この絵はだれ?」「何をしているの?」といった「分析」の学習といったことを通し、頭の中を整理し、言葉の力を高めていきます。
二語文には、他にも様々なものがあります。「おおきい らいおん」「ゆっくり あるく」「かんせいな じゅうたくち」。それらのなかで前回、今回取り上げた「色と形」「人物と動作」のように、子供によってわかりやすいものから徐々に学習を進めていきます。二語文の学習は他にも様々なやり方があり、例えば②で紹介したマトリクスのように、色や形といった属性を組み合わせて表を作る、といったものもあります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
100 マズローのハンマー
この「本校の教材教具」もついに100回目を迎えました。今回は、教材教具を活用していくうえでの注意点、「落とし穴」について確認していきます。
アブラハム・マズローはアメリカの心理学者です。マズローといえば特別支援教育の世界では「欲求の5段階のピラミッド」で有名です。今回はそのマズローが言った「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」という言葉を紹介します。
ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える、というのは「ハンマーを持ったら叩いてみたくなる」ということでもありますし、「物事のすべてがハンマーによって解決するように思える」ということでもあります。先入観の話です。
これを教材教具にあてはめてみると、「子供のために作った教材教具」であったはずが、「教材を使うこと自体が目的」になりかねないし、「子供のすべての課題が教材によって解決するように思えてしまう」ということです。他にもっとよい方法があるかもしれないのに、教材教具を工夫してしまったがゆえに他の選択肢が思いつかなくなり、何が何でも教材教具で物事を解決してしまいたくなる。結果、子供を見る視点が狭くなってしまいかねないということです。
教材教具と限らず、特別支援教育の世界にはさまざまな指導法、方法論があります。教員がそれらを身につけると、子供に使いたくなるし、それで子供の課題が解決するように思えてきます。果たして本当にそうなのか? 一人一人の子供の教育的ニーズに最適なものなのか? 教材教具を工夫すればするほど、陥らないようにしたい落とし穴です。
(本校特別支援教育コーデイネーター)
99 二語文の総合と分析の課題 その1(色と形)
子供の理解や表出は、「単語の理解や表出」から「二語文の理解や表出」へと進んでいきます。子供の理解や表出が単語から二語文に移行するのは、およそ50の単語がわかるようになったくらいのタイミングであることが多いようです。今回は、二語文を直接的に教えていく際の教材を紹介します。『Ⅱ見分ける学習の教材』『Ⅲ言葉やイメージを広げていく際の教材』として想定しています。
二語文といっても、色んな種類があります。「あかい りんご」のようなものもあれば、「おとこのこ が あるく」といったもの。「きのう は にちようび」「かんせいな じゅうたくち」といったもの。使っている言葉の内容によって、かなり難しさの違いがあります。その中でも特に子供にとってわかりやすいのが、「色」と「形(身近なもの)」の組み合わせになります。「あかい りんご」といったものです。
この教材の場合、たとえば「きいろい ふうせんを作って」と言われて、「きいろ」のカードと「ふうせん」のカードを選んでいきます(総合)。
また、逆に、「この絵は何?」「色は何?」「形は何?」と聞かれて、「あかいくるま」「色はあか」「形はふうせん」と答えていきます(分析)。「色は何?」で難しかったら色だけのカードを提示する。「形は何?」で難しかったら形だけのカードを提示する、といった支援を行っていきます。
こうやって物事を総合的に捉えること、分析的に捉えることが、いずれは「数」といったような難しい属性に注目する練習になっていきます。二語文の学習と言うと「国語」の勉強のようにも思えますが、「算数」の内容にも密接につながっていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
98 文章題について(引き算)
足し算は基本的に『合併』と『増加』の2種類ですが、その両者にそれほど難易度の違いはないようです。一方、引き算はと言うと、大きく分けて『求残』『求部分』『求差』があり、これらの難易度は全く、と言ってよいほど異なってきます。『Ⅳ文字や数を身につける際の教材』にかかってきます。
求残』は一番わかりやすい引き算です。「豚が5匹います。2匹いなくなりました。残りは何匹ですか」といったように、「残り」を求めます。「5-2」の引き算らしい引き算です。子供にとって意味が分かりやすく、状況のイメージがしやすいです。
一方、『求部分』は相当に難しくなります。「動物が全部で5匹います。うさぎは2匹です。ぶたは何匹ですか?」といったように、全体と部分の関係を捉える必要があります。式としては「5-2」で同じなのですが、そこに込められている意味は全く違います。
さらに『求差』は難しくなります。「うさぎが5匹います。ぶたは2匹です。どちらがどれだけ多いですか?」というものです。これも「5-2」ではあるのですが、これが引き算であること自体、非常にイメージしにくいようです。
「引き算ができる」と言うと「『5-2』の計算ができること」「繰り下がりができること」といった印象があるかもしれません。しかしそれらは最終的には「指を使う」「ドットを書く」といった方法でも対応できます。しかしながら文章題で問われてくるのは引き算の意味、文章の理解、状況をイメージする力となってきます。
身体の動かし方につまずきがあると、どうしても実体験が不足しがちで、自分の経験に置き換えて考えることが難しくなってきます。だから問題文について、その状況のイメージがしにくくなりやすいようです。ミニチュアなどを操作して考えること、教員と一緒に絵を描いて考えること等、丁寧に学習を進めていく必要があります。
大人にとっては『求残』『求部分』『求差』のいずれも、そう違いなくできてしまうのですが、子供にとっては大きく違います。その壁を越えていけるように、一人一人に手立てを講じながら支援を行っていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)