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2021年11月の記事一覧

152 シリコンスプーン

身体を動かしにくい子どもにとって、食事の際に使う道具をどうするか、ということも重要な視点になります。食事を自分で食べる、すなわち自食する際に食具に求められることと、誰かに食べ物を口元に運んでもらう際に食具に求められることでは、その内容が大きく変わってきます。今回は、食べ物を口元に運んでもらった際に便利なスプーンを紹介します。

 

 

 

 

 

 

このスプーンの素材はシリコンになります。食べ物を上手に取り込むことが苦手な子どもの場合、金属製のスプーンだと歯がガチリとあたって、口腔内が傷つくことがあります。シリコン素材の場合、子どもも安心して口を閉じることができるわけですが、噛む力が強すぎると、スプーンそのものを噛みちぎってしまうこともあります。何にしてもそうですが、道具は子どもの実態に合わせて選んでいきます。

スプーンを選ぶポイントとして、本校の自立活動専任教諭からは2点があげられています。①スプーンのボール部の幅が口に合っているか。②スプーンのボール部の深さが浅めで、上唇で一回で取り込める深さになっているか。迷ったら、「浅め」を選べばよいとのことです。

 

 

 

 

 

 

 

子どもの摂食の練習という視点に立つと、おそらくは大人が想像する以上に、子どもにとっての「適切な量」は少な目であるようです。すなわちスプーンの先に少しだけ、というくらいです。

なお、モデルの口の大きさからすると、上記のスプーンはそれでもまだ大きめです。繰り返しますが、「良いスプーン」は子ども一人一人にとって違うものです。スプーンを使う目的によっても変わってきます。その日、その時、その場面に応じて、適切なものを選択していきましょう。

(本校特別支援教育コーディネーター)

151単語、文指導のステップ その4

149回の続きです。「こしとくひらがなアプリ」を使って単語を打つ前に、「文字ブロックを並び替える」学習を行います。ここでは「すいか」を扱うとすれば、「す」と「い」と「か」の文字ブロックを渡し、「す」「い」「か」の並びになるように取り組んでいきます。

 

 

 

 

 

 

一文字ずつが読めるし、「すいか」とも言えているし、あっさりと進むだろう…と大人としては考えがちですが、ここでつまずく子どもは多いです。しかしこの「文字ブロックを並び替える」というステップを飛ばして、いきなり単語を書く、打つというのはさらに難易度が高いです。

直接単語を書く、打つというのは、いわば心の中に一音ずつを思い浮かべて、それを並べていくという作業です。非常に(おそらくは子どものワーキングメモリに)負担がかかります。文字ブロックの並び替えというのは、一音ずつを視覚化して操れるようにするということです。これを行うことにより、子どもにとって「音を操る」ということの意識が高まりやすくなるようです。

 

 

 

 

 

 

この「文字ブロックを並び替える」という活動のあとだと、「絵を見て単語を打つ」ことがスムーズにいきやすくなります。あるいは、子どもによっては直前に並べた文字の並びを視覚的に記憶して、それを再現しているのかもしれませんが…。

「子どもに発語があり」「一文字ずつを読み上げられれば」それで即、作文ができるようになるか。決してそうではありません。そして今回4回にかけて指導のステップを紹介してきましたが、すべての子どもに同じように効果的な指導方法はありません。

どのように考えながら単語を書いて(打って)いるのか? 子どもの頭の中は見えませんが、そこを推測しながら、一人一人の子どもに最適な支援を組み立てていきます。

(本校特別支援教育コーディネーター)

150単語、文指導のステップ 番外編 特殊音節

「本校の教材教具」コーナーも150回目を迎えました。ご愛読ありがとうございます。

子どもに単語や文字の学習を教えていると、「あれ?」と思うことがあります。大人がイメージする音と、子どもが実際に聞いている音との違いです。

 

 

 

 

 

 

 

例えば「らいおん」ですが、これを文字を覚えたての子どもに打ってもらうと、「らいよん」となりがちです。また、草加市は本校の学区ですが、子どもに打ってもらうと「そか」となることがあります。「そうか」ではありません。

文字を学習済みの大人にとっては「先生(せんせい)」「お父さん(おとうさん)」「氷(こおり)」「小売り(こうり)」「行李(こうり)」「郡(こおり)」といった表記に違和感はないはずです。そしておそらくは、文字表記のイメージ通りに聞こえていることでしょう、しかし文字を学んでいる段階の子どもからするとどうでしょうか。

身近な「せんせい」という言葉からして、子どもは「せんせえ」と書きますし、子どもの耳にはそのように聞こえています。実際には大人にもそう発音していることが多いのですが、我々の頭は自動的に文字表記に合わせて変換してしまいます。

例えば、「おとうさん」の「う」は何と発音しているでしょうか? 「お」のはずです。このように実際の発音と文字表記が異なるのが「特殊音節」であり、子どもがつまずいていきやすいところです。ひらがなは本質的に、音と文字が一致しているので学びやすい文字言語です。しかし例外もあり、指導に当たっては丁寧に行っていく必要があります。

助詞の「を」「へ」「は」もそうです。「八戸へ行く(はちのへへいく)」「母は(ははは)」の分かりにくさは言うまでもありません。「を」についても、子どもに教える時に「WO」と強調したくなりますが、実際には「お」と全く同じ発音になっています。

「こ『お』り」「おと『う』さん」あたりも同じ発音なのに、文字表記になると変わってしまう。非常に難しいところです。※旧仮名遣いなど歴史的な経緯があるため。

また、漢字になると「林(リン、はやし)」といったように一つの文字に複数の読み方が出てきて、子どもの混乱に拍車をかけていきます。単語、文の指導に当たっては、それらの日本語表記のわかりにくさを十分に踏まえたうえで行っていく必要があります。

それでも、英語と比べると、だいぶ日本語の表記はわかりやすいようです。英語の場合、そもそも「A(エイ)」を「エイ」とは発音しません。「C『A』T(キャット)」「『A』LW『A』YS(オールウェイズ)」。ここに出てくる「A」は全部発音が違います。「発音の例外」が日本語よりもはるかに多く、これが英語圏の読字障害(ディスレクシア)の多さの要因となっているようです。

(本校特別支援教育コーディネーター)

149単語、文指導のステップ その3

いよいよ「こしとくひらがなアプリ」などを使った、「書き」の学習に入っていきます。繰り返しますが、読むことと、書くことは違います。そして多くの場合、「読む」→「書く」という順序で学習は進んでいくのですが、子どもによっては「書く」方が、「読む」よりも得意という場合があります。子どもの学びの道筋は10人いれば10通りあり、みな違います。

基本的には「2文字→3文字→4文字」「濁音半濁音なし→濁音半濁音あり」「拗音促音(ゃゅょっ)なし→拗音促音(ゃゅょっ)あり」といったステップをたどります。しかしながらいきなりタブレット端末と「ひらがなアプリ」を子どもに渡し、「かえる」の絵を見せて、「書いて(打って)」と促しても、なかなか難しいことが多いでしょう。発語があり、文字が読めていればできそうなのですが、なかなかそうはいきません。

 

 

 

 

 

 

子どもの中には、心の中で音を操る力(音韻操作)が苦手な子がいます。その場合、「いちご」と聞けば「イチゴ」のことだとわかり、自分でも「いちご」と言えるとしても、「い」「ち」「ご」という、「いちご」を構成する一つずつの音に注意を向けられるとは限りません。なお、これができるからこそ子どもは「単語を逆に言う(いちご→ごちい)」ことができたり、「しりとり」ができたり、「〇のつくことば」を言えたりします。

文字を書くというのは、心に思い浮かべた単語を、一音ずつに解体して、順を追って一文字ずつに変換していくことです。これが、非常に難しいことになります。子どもによってはこの「心の中で音を操作する」ことが難しくて、「いぬ」と書くべきところが「ぬい」といった結果になってしまうことがあります。

※ほかにも原因があることがあり、一概には言えません。

そこで、「絵を見て単語を書く(打つ)」一歩前の学習として考えられるのが、「文字ブロックを並び替える」です。

(本校特別支援教育コーディネーター)