2022年3月の記事一覧
169穴を見分けて入れる
例えば、「ボールを入れる」課題が達成されたとして、「目や手を育てる」ための次の課題としてはどのようなものが考えられるでしょうか。例えば電池のような「円柱を入れる」課題。丸の型はめ。磁石のついたカードをホワイトボードに貼る課題。球と輪を見分ける課題、といったものが考えられます。
今回紹介するのは、「ボールを入れる」課題の一歩先の1つ、「穴を見分けて入れる」課題になります。ここでは、複数ある容器の1つだけに穴が開いていて、そこを見分けて入れていきます。最初は2つの選択肢から始めていき、3つ、4つと選択肢を増やしていきます。子どもは最初は手探りで、「あれ?入らないな」と試行錯誤するかもしれませんが、次第に目を使って、試行錯誤することなく入れるようになっていきます。
なお、選択肢が3つある場合、子どもが一番捉えにくい位置はどこでしょうか? 非利き手側? と考えたくなるところですが、ほとんどの場合は「真ん中」です。これは3つの選択肢だと大人からは実感しにくいところです。しかし5、7、9、11と選択肢を増やすにつれて、「端の方が捉えやすいこと」「『真ん中』というのがことのほかわかりにくいこと」を実感できると思います。これはカードとか、掲示物とか、さまざまなものを子どもに見せる時も同じで、ちょっとした提示の仕方の違いで、子どものわかる/わからないが分かれていきます。
(本校特別支援教育コーディネーター)
168袋から出して入れる
前回、ボウリングを通して「手段をつなげていく」ということの視点について紹介しました。同じように、「目的がわかりやすい活動」の中で手段をつなげる、見通しを持って活動するための学習として、「袋から出して入れる」というものもあります。
「ボールを取って」→「入れる」だけならば、活動のつながりは1つです。活動に必要な見通しはシンプルなものになります。「ボタンを押して」→「電気を消す」、「蛇口をひねって」→「水を出す」そして前回紹介した「ボールを転がして」→「ピンを倒す」なども、「見通し」という観点からすると、ほぼ同様の難易度の活動になります。これらはいずれも「ボタンを押すこと」「蛇口をひねること」「ボールを転がすこと」そのものが活動の目的なのではなく、「電気を消す」「水を出す」「ピンを倒す」といった『目的のための手段』になっています。
では、「袋から出して」「ボールを取って」→「入れる」となると、どうでしょうか。これは活動が2つつながり、連鎖しています。「ボールを取って」→「入れる」よりも活動のつながりが多いわけで、より見通しをもつことが難しい活動となります。さらに活動の難易度を上げていくと、袋を紐でしばったうえで「紐をほどいて」「袋から出して」「ボールを取って」→「入れる」というように3つ活動をつなげるといったことが考えられます。
今回、子どもの見通しということ、活動をつなげていくという視点を紹介しました。実際の生活では、様々な複雑な見通しが求められます。自動販売機を見つけたとき、「のどの渇きを潤すために」「財布を探す」といった場面があるかと思います。しかし、「のどの渇きを潤す」という目的と、「財布を見つける」という手段の間とには、どれだけの活動のつながりがあるでしょうか? 大人からすると当然のつながりなのですが、子どもの成長を考えたとき、ごくシンプルな見通しから、丁寧に活動をつなげ、手段と目的の距離を離していく学習が必要になってきます。
(本校特別支援教育コーデイネーター)
167手段をつなげる学習(ボウリング)
室内で手軽に行える活動として、ボウリングがあります。ボールを転がす→ピンを倒す、という活動ですが、シンプルなようでいて、奥の深い活動になります。
いきなりですが、「ボールを転がす」ということは、活動の目的ではありません。活動の目的はあくまでも「ピンを倒す」ことです。当たり前のようですが、「『ピンを倒す』ために『ボールを転がす』」ということは、子どもにしてみると「活動の手段と目的を分離させる」ということになります。これは実は、かなり難しいことです。
他に「手段と目的が分離している」状況を考えてみると、例えば「水を出すために蛇口をひねる」「食べるためにスプーンを持つ」といった場面があります。これらも、「蛇口をひねる」ことが目的ではありませんし、「スプーンを持つ」こと自体が目的ではありません。あくまでも水を出すこと、食べることが目的になります。さらに手段と目的が分離していけば、「ごはんを食べるために、手を綺麗にするために、水を出すために、蛇口をひねる」といったことになるでしょう。これらの手段をいくつつなげていけるかということが、いわゆる「見通しを持って活動できる」という力になってきます。
ボウリングに話を戻しますと、目的はピンを倒すことです。ですので、一番簡単な取り組み方を考えると、「手で直接ピンを倒す」ということが考えられます。これだと、活動の手段と目的とがイコールですので、子どもにとってもわかりやすい、見通しが持ちやすい活動になります。続いて、「ボールを転がしてピンを倒す」というのがあります。ここで見通しが持ちにくい子どもの場合、ボールを触ったり回したりすること自体が目的になりがちで、なかなか「倒すために転がす」というところに行きにくくなります。
逆に言うと、ボウリングのように「ピンが倒れる」という目的がわかりやすい活動の中で、活動に見通しを持つこと、手段と目的を分離していくこと、複数の手段をつなげていくことの練習をしていきます。そこで身につけた力を発揮して、「手を洗うために、水を出すために、蛇口をひねる」等の、生活の中での、見通しを持った活動が広がっていくことになります。
(本校特別支援教育コーディネーター)
166位置把握・口頭
13、16、96、106、162回で紹介してきた位置把握課題ですが、これらは基本的に「目で空間を捉えて」「記憶し」「手で操作して空間を再現する」活動でした。板書を見て同じように書く、といったことにつながっていきます。「見比べる」力を育てる活動です。
この活動に十分取り組むことで可能になってくるのが、今回紹介する、「口頭での位置把握」になります。使い教材としてはこれまでと同じなのですが、教員側の見本を隠したうえで、「真ん中はアンパンマン」「アンパンマンの右がドキンちゃん」など、口頭で伝えていき、耳で聞いた情報から自分で空間を組み立てていくという活動になります。
これは「目で見て」行うよりもかなり難易度が高い活動になります。なお、子どもが取り組んだものが合っているかどうかの答え合わせは、教員側が隠し持っていた見本を「見る」ことで行います。「見て分かる」が十分に身についてきたところで、見えないものを聞いただけでイメージする、「聞いて分かる」の学習に進んでいくわけです。
(本校特別支援教育コーディネーター)